法的にデータの開示義務はなし
類似事件の摘発可能性は高い

 医師はその診断一つで人の命を左右できる。そのため、極めて高い職業倫理を求められる職業だ。古代ギリシャ時代から現代まで、西洋医学教育を受ける医師は医神アポロンやすべての神に対し、「ヒポクラテスの誓い」を誓約している。その誓いの1つとは「私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない」というものがある。

 ヒポクラテスの誓いを現代的に表現したものとして世界医師会のジュネーブ宣言があり、そこにも「近年、医学の発展とともに医療は高度に専門家、複雑化され、同時に患者主体の医療が提唱されるようになり、患者は自分の診断・治療・予後について完全で新しい情報を得る権利が生じた。患者側にも医療を受けるリスクが求められるが、医療側は患者に納得してもらうためには十分な情報提供が必要である」と記されている。

 その医師は血液検査というデータを隠蔽し、嘘の病気を作り出し、薬代と通院代で荒稼ぎしていたわけだ。しかも、医師は民事訴訟の法廷でも「キミら裁判官も弁護士も、医者ではないから、私が何を言っても理解できないだろうね」「なぜキミらが医者の私を裁くんだ」と言い、“医者は特別だ”という態度を貫いていた。ヒポクラテスの誓いなど、忘れてしまったのだろう。

 だが、患者側がこうした詐欺を見抜くための手段は、診察の現場ではほとんどないに等しいという。事件の捜査関係者がこう解説してくれた。

「法的に言えば医者が診断をする際、血液検査などの検査機関のデータを患者に開示するのは義務ではないんです。医者は高給だし、国家資格をクリアしてようやくなれる職業ですから、高い職業倫理を持っているのは当然とされ、そこを悪用するとは想定されていなかった。悪い医者なら、いくらでも病気を“作る”ことができるんです。警察もこうしたケースには関心を持っている。今後、類似の詐欺が摘発される可能性は高いですよ」

 そう考えれば、うその診断で高額な医療費を詐取されても、疑問を抱かずに払い続けている人はかなりいても不思議ではない。さらに、性病は“周囲バレ”が恥ずかしいため、お金を払ってでも隠したいと思うのは人情だろう。

 身に覚えのある方は、くれぐれも御用心いただきたい。

【お詫びと訂正】
本記事初出時、1ページ目の1段落目、「新宿クリニックの院長が逮捕される」とありましたが、「新宿セントラルクリニック院長が逮捕される」の、また2ページ目6段落目の「新宿クリニック」は「新宿セントラルクリニック」の間違いでした。お詫びして訂正します。(2017年7月18日)