任天堂は8月11日、携帯用ゲーム機「ニンテンドー3DS」の値下げ(2万5000円→1万5000円)に踏切った。発売から半年たらずという前例なき短期間での決定と、1万円という40%の値下げ幅という異例ずくめの発表は、業界内外にさまざまな反響をもたらした。同社の岩田聡社長は今回の経営判断を「信頼を損ない、批判を受けかねないことだと痛感」、自身の年俸定額部分の50%カットと早期購入者に対し20本のソフトコンテンツダウンロード権(アンバサダープログラム)を付与すると発表した。批判を受けることは承知の上で、任天堂はなぜ今回の値下げを断行したのだろうか。
任天堂が値下げを発表した翌日、岩田社長は値下げを決断できた理由として、任天堂のリッチな財務体質と、2001年に発売された家庭用ゲーム機「ニンテンドー・ゲームキューブ」の教訓を挙げた。岩田社長によれば、現経営陣は全員、「ゲームキューブの時にチャンスがあったのに、それを活かせなかった」という意識を共有しているという。
「ゲームキューブ」の教訓とは、なにか。岩田社長が任天堂に取締役として入社した2000年、ソニーが「プレイステーション2(PS2)」を発売し、翌年ゲームキューブが発売された。中でもPS2に対するマスコミの注目度は高く、発売されたばかりの「DVD」が再生できるゲーム機というオトク感と、「プレイステーションの父」久多良木健氏のソニー批判、国が「軍事転用が可能なほど高性能」としてPS2に輸出制限をかけたなどの話題も尽きず、報道が加熱した。その過熱ぶりは、業界内で「ソニーは1円もかけずに100億円相当の広告効果を得た」という噂が出回ったほどである。
最近は、任天堂を根拠なくこき下ろしてSNS系ビジネスを持ち上げる報道もよく見るので、この「世論の風向きに気をつけること」も、ゲームキューブの教訓のひとつかもしれない。なにしろ、モバゲーの直近四半期売上高(346億円)は任天堂(939億円)の3分の1程度なのに、ビジネスの主役が交代してしまうらしいご時世である。ちなみに業界内では「任天堂はSNSよりも『携帯機はPS Vita(プレイステーション・ヴィータ)』という流れに行くのを恐れているのではないか」という声が大勢だ。