ダイヤモンド社刊
1890円(税込)

「成果をあげる者は、意図的に意見の不一致をつくりあげる。そのようにして、もっともらしいが間違っている意見や、不完全な意見によってだまされることを防ぐ」(ドラッカー名著集(1)『経営者の条件』)

 ドラッカーは、意思決定の過程では意見の不一致が必要だという。理由は三つある。

 第一に、組織の囚人になることを防ぐためである。組織では、あらゆる者が、あらゆる決定から何かを得ようとする。特別のものを欲し、善意の下に、都合のよい決定を得ようとする。

 そのようなことでは、小さな利害だけで決定が行なわれる。問題の理解抜きでのそのような決定の仕方は、きわめて危険である。

 第二に、選択肢、つまり代案を得るためである。決定には、常に間違う危険が伴う。

 最初から間違っていることもあれば、状況の変化によって間違うこともある。決定のプロセスにおいて他の選択肢を考えてあれば、次に頼るべきものとして、十分に考えたもの、検討ずみのもの、理解ずみのものを持つことができる。

 逆に、全員一致で決めていたのでは、その決められたものしか案がないことになる。

 第三に、想像力を刺激するためである。理論づけられ、検討し尽くされ、かつ裏づけられている反対意見こそ、想像力にとって最も効果的な刺激剤となる。すばらしい案も生まれる。

 明らかに間違った結論に達している者は、自分とは違う現実を見て、違う問題に気づいているに違いないと考えなければならない。

 もし、彼の意見が知的かつ合理的であるとするならば、彼はどのような現実を見ているのかを考えなければならない。意見の不一致こそが宝の山である。意見の不一致が問題への理解をもたらしてくれる。

 いかなる問題であれ、意見の不一致が皆無などということは、奇跡である。いわんや、四六時中奇跡を起こしているなどありえないと心得るべきである。それでは、社長が一人いればよいことになる。

 後で不祥事となった行動の多くが、ろくに議論もされずに決められていることは偶然ではない。

「成果をあげる者は、何よりも問題の理解に関心をもつ」(『経営者の条件』)