増税の必要性を訴える野田新政権の人事がいよいよ出揃った。少数派グループであるがゆえに党内融和を重視するあまり、民主党役員や閣僚を含む重要ポストには増税慎重派の議員を多数起用、“ツギハギ人選”の様相を呈する。野党・自民党にも慎重論は根強いだけに、早くも増税路線に暗雲が垂れ込めている。

増税をにらんだ布陣を敷くも、党内融和重視でツギハギの人選となった
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「随所に政策通を配した、手堅い布陣であると思う」

 9月2日、日本経済団体連合会(経団連)の米倉弘昌会長は、野田新内閣の閣僚人事を評価し、「新政権の政策遂行に全面的に協力していく」と歓迎姿勢を見せた。

 その前日、野田佳彦首相は経団連を含め経済3団体を表敬訪問。米倉会長は野田首相から新設する政府の会議への出席を要請され、これを了承した。

 新設する会議とは、政官民が参加するかたちで経済財政運営を行う「国家戦略会議(仮称)」のこと。小泉内閣時代の経済財政諮問会議を参考に、民間からも意見を吸い上げることで、菅政権では冷え込んでいた経済界との友好関係を再構築することが狙いの一つだ。

 じつはこの会議の新設、「財務省のアイディア」(政府筋)なのだという。菅政権下においては「増税ムードはまったくない」(財務省幹部)と諦めかけていた財務省が、ここにきて息を吹き返し、増税実現へ向けて野田首相を全面バックアップしているわけだ。

 野田首相は、先の民主党代表選で唯一、増税の必要性を訴えた候補者だった。首相就任直後、党政策調査会に新設した税制調査会の会長に財政再建派の藤井裕久元財務相を充てたのも、これが「増税のための布陣」(政府筋)であることがうかがえる。

 小沢一郎元代表に近い輿石東参院議員会長を党幹事長に据えるなど、復興増税に慎重な議員が多い小沢グループから数多くの人材を登用したのも、あくまで懐柔策と見る向きが多い。いわば、反対派の封じ込め策だというのだ。

 ところがである。早くも増税路線から脱線しかねない大きな弱点が浮上している。前原誠司前外相を政調会長に起用したことだ。

 少数派グループ出身の野田首相は前原グループにも頼らざるをえず、法案や予算案の提出には政調会長の事前承認を得ることを約束、就任要請と同時に政調会長の権限を強化した。当の前原氏は復興増税について、「この1~2年は慎重であるべき」との立場で、むしろ増税には否定的なのだ。