創続総合研究所

[特別企画]相続税・贈与税
「税務調査で8割以上がNG」はなぜ?(前編)

「相続税を納めて一安心」と思っていたら、忘れた頃にやってくるのが税務調査だ。2015年度には1万1935件の調査が行われ、その8割以上が指摘を受けている。贈与税は調査件数こそ少ないものの、指摘を受ける人は実に9割。調査は、何を基準に、誰が受けるのか。回避する方法はあるのか? 国税局で税務調査に携わっていた2人の税理士が真相を語る。(聞き手/税理士 脇田弥輝)

相続直前に多額の預金を
下ろすと調査されやすい

租税調査研究会
武田恒男
副代表理事・税理士

たけだ・つねお/一般社団法人租税調査研究会副代表理事。1952年山形県生まれ。国税局で調査部特別国税調査官、調査部課長、課税部次長を務め、複数の税務署で署長を歴任。2013年に退職し、税理士登録。税務調査などに関する著書多数。Photo by Masamitsu Tanaka

脇田 相続税の申告後、国税局や税務署で収集した資料情報などから申告額が過少だと思われたり、無申告ではないかと想定される案件には、個人宅を訪問して実地調査が行われることがありますね。

松林 国税庁の発表では、2015(平成27)事務年度の実地調査件数は1万1935件です(下図)

武田 相続税については、各国税局単位で税務調査を行います。申告書が提出されたうちの、4件に1件ぐらいは実地調査対象になっています。

脇田 所得税の実地調査と比べ、比率としてはかなり高い印象です。

武田 私は、必ずしも高くないと思います。そこには相続税の特殊性があります。一つ目は、相続税が所得税の補完機能を持つということ。二つ目は、相続税には富の集中の抑制機能があるということ。

脇田 所得税の補完機能について、一般の方にはなじみがありません。

武田 例えば、相続が発生する前に所得税の課税漏れなどがあった場合、一生分の課税漏れを相続税で全て精算しましょうという考え方です。それまで所得税の調査を免れたと喜んでいた人に対する「最後の砦」とも言われています。

脇田 富の集中の抑制機能とは、具体的にどういうことですか。

租税調査研究会
松林優蔵
主任研究員・税理士

まつばやし・ゆうぞう/一般社団法人租税調査研究会主任研究員。1953年青森県生まれ。国税局で主任監察官、課税部 資料調査課課長などを務め、複数の税務署で署長を歴任。2013年に退職し、税理士登録。Photo by M.T

武田 相続人として財産を受け取った人から税を徴収することで、財産保有状況の均衡を図るのです。その大命題を前提に、相続税調査が行われるということを認識しておく必要があります。

脇田 税務調査の対象にされやすいのはどのような人でしょうか。

武田 富裕層が“狙われる人”であることは間違いありません。

松林 3年ほど前から、各国税局で富裕層対策プロジェクトチームを立ち上げて、重点的に富裕層の申告内容とか財産の移動関係などを分析し、そこから所得税や法人税の課税漏れがないかどうか、贈与税はどうかをチェックして、最終的にはそれを相続税の徴収につなげていく取り組みをしています。

武田 “狙われる人”の分かりやすい例は、相続直前に多額の現預金を引き出した人で、結果として引き出した金額を申告に反映していない人です。これがよくある。

 また、課税当局は被相続人についても長年にわたって資料情報を蓄積・分析しています。不動産の所有状況や、年間の所得から想定して正しく相続税の申告に反映されていないケースは実地調査対象になりやすいのです。

 

※ 2015年7月1日~16年6月30日。「事務年度」とは、法人税、消費税、源泉所得税の事務実施年度で、毎年7月1日から翌年6月30日まで

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