バーに、一枚のモノクロ写真が飾られていた。

 逆光の中に浮かび上がるシルエット。戦車から突き出た砲身の根元に一人の子どもがまたがっている。

 上部に広がる空は、ところどころ雲の固まりで覆われていた。

 撮影したのは、写真家の青木弘さん(35歳)である。青木さんはこれまでパレスチナやルワンダ、北朝鮮、アフガニスタン、ソマリア、スーダン、イラクなど10ヵ国以上を撮影のために訪れている。戦時下の子どもたちを撮影した先の写真で、若手写真家の登竜門のひとつ「コニカミノルタ・フォトプレミオ」(2006年度)にも入賞している。

 そんな彼は、日本にいる間はほとんど昼食をとらない。多くの人がランチを食べている時間帯が、彼にとっての休息の時だからである。

朝夕の新聞配達で取材費を稼ぐ
戦場カメラマンが写真を撮りはじめたきっかけ

 街がまだ暗闇と静寂に包まれている午前2時、インクの臭いを漂わせた朝刊が次々と各地の販売店へ届く。

 届いた新聞に、青木さんは折り込みチラシを挟み込む。次に、それを必要な分だけバイクに積んで、担当する地域へと向かう。時に階段を駆け上ったり、下りたりの肉体労働である。

 作業を終え、自宅へ帰るのはおおむね午前6時から7時の間。青木さんはそこからメールチェックなどをし、パンやヨーグルトなどで軽く朝食を済ませてから、午前8時半には布団に入る。

 午後1時半に起きると、今度は夕刊の配達だ。配り終えるのは早くて午後5時、遅いと午後6時近くになることもある。

 新聞配達と居酒屋、二つのアルバイトを掛け持ちしていたこともあるが、今は新聞配達一本に絞っている。

 撮りためた写真の整理や依頼された仕事をこなすのは、平日の夜間や夕刊のない日などに限られる。

「取材っすか? いっすよ」

 出会った時、彼は二度目のリビア取材から帰国したばかりだった。

 (この人が戦場カメラマン?)

 かなり意外な気がした。取材者は取材対象に似てくるものである。しかし、青木さんからは、兵士を思わせる緊張感や過酷な戦地の空気はあまり感じられなかったからだ。

「どうして紛争地帯の写真を撮ろうと思ったのですか?」

「たまたまです」

 と、彼は言う。