前回、過去10~20年間程度の期間にわたる給与の動向を見た。

 ところで、「給与」としていかなる指標を見るかで、結果はかなり違う。

 前回は、「所定内賃金」を見た。この指標では、産業全体の給与水準は、1990年代末からほとんど頭打ちである。ただし、低下はしていない。

 ところが、事業所規模5人以上の現金給与総額を見ると、【図表1】のとおりであり、97年をピークに、かなり顕著に下落していることが分かる。

 産業別に見るとどうであろうか。

 製造業では、この指標で見ても、2006年までは賃金が下がったとは言えない(図表1)。

 しかし、他の分野では、給与は下がっている。

 【図表2】には、サービス産業における賃金の推移を示す。これらの分野では、給与は顕著に下落した。しかも、後で述べるように、水準自体も低い。

 誠に意外なことに、医療・福祉でも賃金が低下している。「意外」と言ったのは、消費者物価指数で見れば、医療関係の物価は上昇しているからだ。この問題については、後述する。

 したがって、製造からサービスに雇用が移ると、全体の所得が下がることになる。つまり、製造業が放出する受け皿が、製造業より生産性の低い産業であったために、所得が低下するのである。