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農業開国論 山下一仁
【第16回】 2009年7月31日
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山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)/東京財団上席研究員(非常勤)]

農政を食管法時代の昔へと戻しかねない
「トレーサビリティ法」という天下の悪法

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 ドサクサまぎれとはこのことか――。

 やや旧聞に属するが、麻生・自民党政権の求心力が著しく低下し始めていた今年4月、農政改革の時計の針を大きく逆戻りさせかねない“ある法律”が国会で成立した。

 正式名称は、「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」、通称“米(コメ)トレーサビリティ法”である。

 なぜこれが問題なのか。それは、端的に言えば、農林水産省のいたずらな権限拡大そして農協グループの勢力復活を通じて、農政を食管法時代の昔へと戻しかねないからである。

 説明が必要だろう。まずトレーサビリティ法とは何か。これは、役所的な表現をすると、農産物や畜産物の生産者や生産過程の情報、食品・加工・流通に関する情報を記録・管理することによって食品の履歴や所在についての情報を、流通過程からすれば川上の最初の生産の段階、あるいは川下の最後の消費の段階の、双方から追跡可能とするシステムのことを指す。

 分かりやすく言えば、要は、どの生産者が作った農産物がどの流通業者や加工業者の手を経てどこで売られているかという食品の履歴や所在についての情報をトレースすなわち追跡するために、取引の記録を残していこうというものだ。あくまでも食品の移動を追跡するためのものであり、食品の安全管理を直接行うものではない。

 欧州連合(EU)では、2000年には牛肉、2005年からはすべての食品、飼料などについて、トレーサビリティの導入が法律で義務付けられている。

 日本でも、一般的に狂牛病の名称で知られている牛海綿状脳症(BSE)の発生を受けて、2003年に牛についてのトレーサビリティ法が成立している。トレーサビリティがなされていれば、問題が発生した時に原因を速やかに特定でき、問題の商品だけを迅速に回収できる。

 その誤謬については後ほど詳述するとして、今回日本においてコメの取引に対しトレーサビリティが導入されるきっかけを作ったのは、ほかでもない、昨年大きく政治問題化した汚染米問題である。

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山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)/東京財団上席研究員(非常勤)]

東京大学法学部卒業。同博士(農学)。1977年農水省入省。同省ガット室長、農村振興局次長などを経て、2008年4月より経済産業研究所上席研究員。主著に『企業の知恵で農業革新に挑む!―農協・減反・農地法を解体して新ビジネス創造』(ダイヤモンド社)、 『農協の大罪-「農政トライアングル」が招く日本の食糧不安』(宝島社新書)、『フードセキュリティ-コメづくりが日本を救う』(日本評論社)、『国民と消費者重視の農政改革』(東洋経済新報社)、編著に『食の安全と貿易』(日本評論社)など

 


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