20年後の自分が納得する未来を手に入れるためには、もう無関心ではいられない。大人まかせにはできない――。そんな思いを胸に約80人の大学生が10月からの2ヵ月、エネルギー問題に真剣に向き合った。今月末までに、1人ひとりが考え抜いたエネルギー政策案を首相官邸や関係閣僚、与野党党首に提出する。彼らの2ヵ月を追った。(メンター・ダイヤモンド委嘱記者 藤原秀行)

なにげない会話から
プロジェクトがスタート

「危険な原発はすぐに全部止めて、自然エネルギーに切り替えるべき。多少の不便はみんなが我慢すれば済む」。東京の私立大学に通う高山広海(仮名)はつい1ヵ月前までそう思っていた。その考えが揺らいだのは、福井県高浜町の野瀬豊町長や風力発電会社の担当者から直接話を聞いてからだ。

 原発を誘致した自治体の財政は、国からの補助金や交付金、電力会社からの固定資産税に依存している。貴重な雇用をうんでくれるのも原発だ。原発依存からの脱却を目指すにしても、代る財源を見つけられるのか、住民の働く場を確保できるのか、課題は山のようにある。「原発はわが町の基幹産業。原発が止まれば、町民生活のあらゆるところに影響が及ぶ」。野瀬町長は懸念を示した。

福井県高浜町の野瀬豊町長から話を聞く学生たち
Photo by Toshiaki Usami

 一方、風力発電会社は参入から10年間、風力発電事業で1度も黒字を出していない。担当者は、原発事故の影響で風力への関心が急速に高まっていることを実感しているが、「国が本気になってエネルギーシフトに取り組んでも、自然エネルギーが原発のかなりの部分を代替するまでに成長するには20~30年はかかる。国が及び腰なら、さらに時間が掛かるだろう」と、厳しい見通しを示した。