エネルギー動乱Photo:123RF

各国のエネルギー安全保障や国際競争力の維持のためには「脱炭素」ではなく「低炭素がちょうどよい」という認識で世界は落ち着くのであろうか。「大転換点になった2025年」と見なされる可能性もある今年、世界のさまざまな動向から、ますます目が離せない。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、最近の世界のエネルギー関連の動向をおさらいし、近未来を占う。(アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部マネジング・ディレクター 巽 直樹)

エネルギー安全保障の確保
「一丁目一番地」と思い知る

 今年2月23日に実施されたドイツ連邦議会の総選挙(下院)結果は、従前の予想通りとなり(2025年2月4日配信『 「こんなドイツに誰がした」エネルギー政策の矛盾露呈で独政権は混乱!トランプ氏が連発した“エネ関連の大統領令”も徹底解説!』参照)、政権与党が敗退した。昨年の選挙イヤーでは世界中で政権与党が相次いで敗れたが、選挙イヤー延長戦のドイツでもこれに続く形となった。

 一連の選挙結果に見られる共通項には、政権与党の敗退だけではなく、保守勢力の復権とリベラルの後退、ナショナリズムの高まりなどの要素もある。他方では、この間にさまざまな政策における欧米間の方向性の違いも明らかになり、端的にはロシアとウクライナの停戦を巡る対応や国防問題などでは利害が一致していない。

 ここ数年の不安定化した世界情勢の影響を受け、各国・地域はエネルギー安全保障の確保が一丁目一番地であることを改めて思い知った。この危機認識は世界に通底しており、選挙でもエネルギー政策の論点となって表れた。もっとも、欧米間の方向性の違いという観点からは、エネルギー政策においては米国での政権交代が決定的な差異を生み出している。

 このような状況の中、今のところ日本はGX政策の方針を堅持している。2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、同月に国連へ提出された35年NDC(国が決定する貢献)に整合的となるように策定された。

 その一方で、上述の世界情勢を踏まえ、原案からのダウンサイドリスクを意識したシナリオが織り込まれたことは注目点である(詳細は橘川武郎・国際大学学長の寄稿、3月4日配信の 『エネルギー基本計画はトランプ再選で「重大なアレンジ」が急遽加えられた…脱炭素後退で重要になるエネルギー源とは』に詳しい)。