
小泉悠と山口亮の2人の軍事研究者によれば、抑止力に欠く日本は、警察権と自衛権の隙間を狙われ、攻撃を受ける可能性もあるという。平時と有事の中間にある「グレーゾーン事態」を戦争に発展させないために、日本が着手すべきこととは。※本稿は、小泉悠・山口亮『2030年の戦争』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
日本は抑止力が足りないから
グレーゾーン事態を招く
小泉悠(以下、小泉) 台湾有事をめぐっては、山口さんはグレーゾーン事態(平時と有事の中間にある状態)をきっかけとした偶発的衝突の可能性が高いと考えているのですね。
山口亮(以下、山口) はい。最も確率が高いというよりは、対応がしにくいので懸念しています。計画的に武力行使をするには準備が必要です。ある程度相手の動きを読めるので、抑止と防衛の両面から対策を講じることができます。
しかし、偶発的な衝突となると、相手は台本なしにリミッターが外れた状態に近いので、急速にしかも多様な形でエスカレートする可能性があります。近年は現状維持勢力と現状変更勢力の間でグレーゾーン事態が増え、緊張が高止まりしています。この状態が続けば、偶発的衝突の可能性が高くなり、一気にエスカレートする恐れがあります。
小泉 私はそれについては判断を保留していますが、もし一番可能性の高いシナリオがグレーゾーン事態からだとすると、日本はどう対処しようとしているのでしょうか。今足りないことがあるとすれば、それは何でしょうか。
山口 簡単に言えば抑止力が足りません。グレーゾーン事態が生じること自体、抑止が不十分なことを示しています。また、防衛力と同様に問題なのは、法制度による制約です。