経済産業省のエリート官僚がインサイダー取引の疑いで逮捕された。この人、みせかけのエリートじゃなくて、本物。元審議官で次官の呼び声も高かったという。

 でも馬鹿なことをしたものだ。どれだけインサイダー取引で利益を得たか知らないが、今までの功績もなにもかもぶっ飛んでしまった。しかも、容疑を否認し、「妻の指示で株を買った」と「妻が、妻が」と連呼している。どこか品のない政治家が「秘書が、秘書が」と言うのと似ていて、なんとも見苦しい。

 このインサイダー取引とは、「内部者が、会社の重要事実を公表より前に知って会社の株式を売買すること」。簡単に言えば、会社の機密情報を知りえる立場の人が、それを知って他の人より有利な条件で株取引をすることだが、そんなことをすれば市場の公平性、信頼性を阻害してしまうから禁止してあるのだ。

 この規制は、1988年の証券取引法改正によって導入されたのだが、それまではやり放題だった。株取引は、他人より早く会社の機密情報を入手し、上手く売買することだとさえ思われていたくらいだ。この元審議官も、インサイダー取引で大儲けする先輩官僚を見習い、早くから株取引に手を染めていたのだろう。

 さてこの事例は、典型的な「李下に冠を正さず」という故事の通りの事件だ。たわわに実ったスモモの下で冠を直したりすれば、盗んだと思われることから、疑われるようなことを最初から慎むべきという教えだ。

人事院での出来事

 私は、この故事をある場所で使った。それは人事院でのことだ。ある日、人事院から公務員の倫理について検討会をしますので、出席して欲しいと言われた。