中流階級の雇用の現実

 1950年代の米国を代表する企業であったGMは最盛期に米国内で40万人もの雇用を産み出していたのに、今の米国を代表する企業であるアップルはその1/10の4万人強の雇用しか産み出していません。

 この事実が象徴するように、かつて米国で中流階級の雇用を大量に創出してきた製造業は、今や雇用吸収源としてあまり多くを期待できなくなりました。これは、工場が労働賃金の安いアジアなどに移転したのみならず、機械化やIT化などにより工場の生産性が向上するに伴い、雇用者の数が少なくて済むようになったからです。

 実際、米国では、2010年の製造業の生産量は10年前の2000年とほぼ同じ水準でしたが、なんと600万人少ない雇用者数(2000年当時の雇用者数の2/3)でそれを実現しているのです。ちなみに、この600万人という数字は、米国の製造業がそれまで70年かけて増やした雇用者数と同じとのことです。

 もちろん、中流階級の仕事は製造業だけではありません。サービス業も中流階級の雇用の場として重要な役割を果たしています。どこの国でも経済が発展するに伴い、産業/雇用の中心は農業→製造業→サービス業と推移しており、米国でも製造業で失われた雇用はサービス業で吸収されています。

 しかし、そのサービス業でも、IT化による生産性の向上に伴い雇用者数は少なくて済むようになっています。

 その極致は、米国MITの技術者が開発したPrestoという端末ではないでしょうか。この小型端末をレストランのテーブルに置けば、客はその端末から料理の注文や会計をすべて行えます。その端末を使えば、客は料理が来るまであと何分かかるかも分かるし、待っている間はゲームなどのエンターテイメントを楽しむこともできます。従来はウェイターやウェイトレスといった“人”がやっていた仕事を、IT端末がより完璧な形で代替するのです。

 しかも、この端末は1台あたり月100ドルのコストで導入できるとのことです。1日8時間営業で定休日がないレストランなら、端末一台あたりの時給は42セントとなりますので、どんな安価な労働力を雇うよりも効率的です。