昨年世界の1000ヵ所以上で、富を独占する大金持ちに対し若者たちが抗議の声をあげた“ウォール街占拠”運動。世界のリーダーたちはこれに危機感を持ったのか、今年のダボス会議では「これからの資本主義をどうしたらよいか」についての議論が相次いだ。実は“占拠”運動はこれからが本番で、5月のシカゴでのG8サミットなどに向けて次の闘いの準備を進めている。その仕掛け人である、カナダの雑誌発行人のカレ・ラースン氏にその狙いを聞いた。(聞き手・ジャーナリスト 矢部武)

世界中の若者が
社会に幻滅し、怒っている

Kalle Lasn/1942年、エストニア生まれ。フィルム制作者、雑誌発行人・編集者、活動家。オーストラリアの大学で応用数学を学んだ後、カナダへ移住。60年代半ばから日本の経済、社会、文化などに関するドキュメンタリーを制作。日本の経済成長の秘訣を描いた”Japan Inc.: Lessons for North America?”は米国産業映画祭で銀賞を受賞した。89年に雑誌“アドバスターズ”を創刊。過剰な広告や消費がいかに社会をダメにしているかをパロディーで批判し、“商業主義を退治する”活動を展開している。

――世界の経営トップが集まるダボス会議で、米国型経済モデルのゆがみなどについての議論が行われたということは何を意味しますか。

 資本主義が危機的状況に陥り、多くの人が目覚め始めたということだろう。専門家は「世界経済はゆっくりと回復基調にあり、雇用も戻ってくる」と指摘しているが、「危機はどんどん深刻さを増す」と、多くの人が感じている。しかも、どこが不況の底なのか誰にもわからない。

 このまま世界経済が停滞し続け、雇用情勢が回復しなければ、さらに多くの若者が怒りの声をあげるだろう。スペインなどは若者の失業率が50%に達しているのだ。

 私は69年生きてきて、若者の抗議運動がこれほど盛り上がったのは初めてだ。1968年にフランスの「パリ・オデオン座占拠」で始まった学生運動は、世界中の何百もの大学キャンパスに広がった。彼らは親の世代の抑圧的な社会体制に反発し、自由を求めた。当時私は、それがグローバルな社会変革運動に発展するのではないかと期待したが、結局何も起こらなかった。でも、今回の“占拠”運動はあの時と比較にならないくらい大きなものだ。