仕事の場で話をしていて、何が好きで何が嫌いか、その人の好みがまったくわからない人がいます。仕事としてのコミュニケーションはきわめて機能的で円滑なのですが、無色透明でつかみどころがない。人工知能と話をしているようで、そういう人と話すのはどうも苦手です。単なる私の好き嫌いといえばそれまでですが。

 反対に、好き嫌いがはっきりしていて、話しているだけで趣味嗜好がビンビン伝わってくる人がいます。私の経験でいえば、優れた経営者は、少し話をしただけで好き嫌いがわりとはっきりとわかる人が多い。

 いつも引き合いに出して恐縮ですが、ファーストリテイリングの柳井正さん。仕事の話をしているだけで、「なるほど、柳井さんはこういうことが大好き(大嫌い)なんだな」と、好き嫌いがわかりやすい。日本電産の永守重信さんも好き嫌い全開の経営者です。先日、柳井さんと永守さんが対談なさっている映像を観る機会があったのですが、「経営とリーダーシップのあるべき姿」がテーマであるにも関わらず、初めから最後まで2人でずっと好き嫌いの話をしているのが何とも可笑しくて、印象に残りました。

好き嫌いが明確な人ほど、センスがある

 この連載の第2回で「スキルとセンスの違い」を強調しました。スキルとは、ITを使えるとか、英会話ができるとか、財務諸表を読める(会計のスキル)とか、現在企業価値を計算できる(ファイナンスのスキル)、法律の知識がある、プレゼンテーション・スライドをつくるのが上手とか、あげていけばきりがないのですが、そういうことです。担当者の仕事のレベルであれば、このようなそれぞれの専門分野でのスキルで勝負できます。

 しかし、経営者としてものを言うのは、スキルよりも圧倒的にセンスです。優れた経営者に好き嫌いがはっきりしている人が多いのも、好き嫌いが経営の「センス」や「直観」の鋭さと密接な関係にあるからだと思います。

 スキルとセンスの決定的な違いは、スキルがひとつの物差しの上で「どのレベルに達しているのか」という量の多寡の問題(英語力でいえばTOEICが何点とか)であるのに対して、センスは千差万別だということです。センスのよさを測るひとつの物差しはありません。人によって好き嫌いが異なるように、センスの方向性も人によって様々です。

 ただし、センスのない人とある人で厳然とした違いがある。「誰も説明できない。しかし、見る人が見ればすぐにそれとわかるのがスタイルだ」という名言がありますが、ここでいう「スタイル」を「センス」に置き換えても、同じことがいえるでしょう。