核家族化が進み、長寿社会となった今日、相続も複雑になりやすい。一度もつれたら、なまじ血縁があるだけに修復が利かないのが相続。小さな相続にもプロの力が必要と語るのは、税のコーディネートサービスを追及するビスカス代表取締役 八木美代子氏だ。

相続は「お金持ち」だけの問題か?

 『相続』というと、たいていの人は「うちには関係ない」と言います。ドラマや映画の中で相続からドロドロの愛憎劇を繰り広げるのは、大金持ちです。ところが、東日本大震災の影響で平成24年度も実施は見送られたものの、相続税は大幅な増税が予定されています。

 現行法上は「基礎控除5000万円+1000万円×法定相続人数」を財産から差し引くことができます。ところが改正が行われれば、この差し引ける額が「基礎控除3000万円+600万円×法定相続人数」となってしまいます。つまり、妻と子ども2人が相続人となった場合、現行法上は財産総額が8000万円までは課税されませんが、改正後は財産が4800万円以上あれば課税対象者となるのです。

「そんなにお金ないよ」と思う方もいるかもしれませんが、相続財産には自宅や証券などあらゆるものが含まれます。都内に一軒家など持っていれば、一般的なサラリーマン世帯でも財産5000万円以上などはざらにあることです。

「お金がない」からこそ、もめる場合もある

 また、お金(=現金)があまりないために、もめる可能性もあります。たとえば、主な相続財産は自宅である一軒家で、あとは預金がわずかにあるばかりというケース。相続人は年老いた母、母と実家で同居している長男、家を出ている次男と長女だったとします。実家は母親と暮らしている長男が相続。その他の預金を次男・長女で分けるという方法が考えられますが…。ここで次男や長女がもらう預金が実家の評価額と比べて少ない場合、「兄さんばかり多くもらってズルイ」と不満の声が出てくるのです。

 このような場合のために『代償分割』という制度があります。これは財産を多くもらった相続人が他の相続人に対して金銭を支払うことにより、不公平感を解消するものです。今回の場合は長男が次男や長女に対して金銭を支払うわけですが、長男は自宅以外の財産をもらわないために自分のお金から払わなくてはなりません。

 長男がお金を払うことが難しく、それでも他の兄弟が納得してくれない場合は、自宅を手放してその代金を分割する方法も考えられます。しかし、それでは母親と長男が生活する場がなくなり、兄弟の仲も悪化してしまうでしょう。