歴史小説に「バトルロイヤル」を入れてみたら、想像以上にしっくりきた話
歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。第166回直木賞をはじめ数々の賞を受賞してきた歴史小説家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語る。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身やおすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【直木賞作家】が仕掛ける“能力バトル×股旅物”という革命Photo: Adobe Stock

新しさだけではなく、古さからも学ぶ

昔の作品に学ぶべき要素はたくさんあります。

私の作品『イクサガミ』は、“山田風太郎作品の令和バージョン”というイメージから物語を着想しました。

「能力者バトル」の元祖・山田風太郎へのオマージュ

『戦中派不戦日記』や『忍法帖』シリーズなどで知られる山田風太郎は、特殊な力を持つ者同士が戦ったり、力を合わせて敵を倒したりする「能力バトル」「能力者バトル」というジャンルを生み出した先駆者です。

現代の若者に人気の『呪術廻戦』や『ONE PIECE』も、源流をたどっていくと山田風太郎の『甲賀忍法帖』にたどり着きます。

令和にも通用する山田風太郎の魅力

2000年代前半には『甲賀忍法帖』を原作とする『バジリスク ~甲賀忍法帖~』という作品が発表され、近年も続編がアニメ化されています。

『バジリスク』が若者に受けているのを見て、私は山田風太郎が今なお色あせていないことを確信しました。

若者にとっつきやすい要素を加えれば、もう一度、文章で山田風太郎の世界観を世に問うことができそうです。

「股旅物」と「能力バトル」の融合

『イクサガミ』は山田風太郎の世界観を再現しつつ、侠客や博徒などが旅をしながらストーリーが展開していく「股旅物」というジャンルにもヒントを得ています。

股旅物は今では廃れてしまっているのですが、ただ旅をするのではなく、「戦いながら移動していく」という物語にすれば、面白いのではないかと考えたのです。

現代ドラマの構造を取り入れる

一方で、最新のドラマの作り方も参照しています。もう一つの参照例が「参加者 vs 運営側」という設定です。

山田風太郎が『甲賀忍法帖』を書いた頃は、参加者 vs 参加者のバトルが物語の主軸でしたが、最近では参加者 vs 参加者から、いつの間にか参加者 vs 運営側に変わっていくストーリーがトレンドになっています。

『イクサガミ』に活きる現代バトルの構図

最近でいうと『LIAR GAME』や『カイジ』『イカゲーム』といった作品にそういったトレンドが見られ、これを『イクサガミ』にも応用しています。

ごく一部をお話ししましたが、私はこういった試行錯誤をしながら、新しい歴史小説を創作しています。歴史小説には、まだまだ進化の余地があるということです。

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。