大言壮語に走りやすい中国が
小さなことに目を配り始める

 私が利用したのは深南中路にある(中航城)格蘭雲天大酒店だった。会議の連続で、身の回りのものを片付ける時間的な余裕がなく、私物が客室の机の上に散らばっているような状態だった。

 ところがである。夜、ホテルに戻ったら、机の上に覚えのない便箋が置いてあることに気づいた。それは、客室を掃除してくれた女性が残してくれたものだった。掃除した際に、机の上に薬が置いてあるのを見て、普段の通り、無料で提供している水が2本では足りないと思い、4本にしたという内容が書かれていた。

 旅先で受けた、この優しい言葉は心に染み込んだ。たまたま、いつも使うホテルが満室になったため、仕事先の関係者が比較的距離が近いこのホテルを取ってくれたのだ。クレジットカードの色ともまったく関係のないホテル利用だっただけに、その感激はひとしおだった。

 後に、このホテルのフロントマネージャーと意見交換をした。フロントマネージャーの話を総合すると、次のような内容だった。

 深セン経済特別区建設時代の1989年にできたこのホテルは、当初こそ高級ホテルの一つだったが老朽化が進み、ハード面では、その後、雨後の筍のようにできた高級ホテルとは競争できない。そのため、サービスなどソフト面で競争するしか道はないと考え、従業員教育を徹底させた。一方で、従業員の意識も高く、経営側も正直、助けられたところが結構ある、というのだ。

 会議の合間に、深センの展覧センターで開催される工作機械関連の展示会を見に行った。会場に大きく飾ってあった「品質中国」というスローガンを目にしたとき、出張先で体験したこのいくつかの小さな出来事に、中国が求めている“変化”を読み取れた気がした。

 これまでの中国は、どうしても大言壮語する方向へ走りやすかった。しかし、小さな感動、小さな改善、小さな進歩にも目と心を配り始めたことに、私は大きな拍手を送りたい。

 同時に、日本にとっては脅威になるのではないかと感じた。なぜなら、こうした小さなことへの配慮は日本の“専売特許”のようなものだったからだ。ぜひ日中両国は、互いに刺激し合って、ともに進歩していってほしい。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)