「小・中学生の約4割が歯肉炎になっています」

 この文字をテレビCMやインターネット広告、ドラッグストアの店頭で目にしたことがおありだろう。その製品とは花王の洗口液「クリアクリーン デンタルヘルス」。

  ハミガキ後に口にふくんでブクブクすることで、菌の繁殖をおさえ、歯肉炎を予防するというもので、「小中学生の子供を持つ親が買っていくケースが多い」(小売り関係者)。3月の発売以来、計画の2倍の売れ行き。洗口市場の2ケタ成長のけん引役となっている。

 ボーナスや残業代が減り、消費者の財布の紐が堅くなっているなか、洗口液はそもそもの使用率が3割程度と、必需品ではない。にもかかわらず、ヒット商品となった裏には「花王のマーケティング力」とみる小売り関係者が多い。

 冒頭のキャッチコピーは、平成17年の「歯科疾患実体調査」を利用したもの。幼児期には親が子供を膝に乗せて仕上げ磨きをしていたが、子供の成長につれてその習慣がなくなる。その結果、磨き残しが出て、歯肉炎につながるというのが花王の分析である。

 子供向けの洗口液そのものは業界内にはあったが、花王のマーケティングのミソは子供向けとはうたっていないところだ。小中学生の子供を持つ親に向けて“危機感”を喚起し、「子供にも親にも使ってもらう商品」とした。味覚もソフトミントでイチゴ味といった子供向けではない。

 花王は、「ファミリーで洗口液を使わないと、習慣として根付かない」とあくまでもファミリーにこだわったわけだ。

 洗口液市場の二大ブランド、「GUM」(サンスター)や「モンダミン」(アース製薬)とはまったく違う土俵を作り出した花王は、学校向けに10万本のサンプリングを行なうなど、さらに攻勢をかける構えだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)