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野口悠紀雄が探る デジタル「超」けもの道

ニューヨーク・タイムズの記事検索サービスは、われわれの情報環境を一変させた

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第26回】 2008年5月26日
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 ニューヨーク・タイムズ(NYT)が、過去記事のオンライン検索・閲覧を2007年の秋から無料化している。これは実に大きな事件だと思う。なぜなら、われわれの情報環境がこれによって一変したからだ。このサービスを使う興味と意思があり実際に使っている人の情報力は、飛躍的に増大した。それに対して、ウェブ検索にそもそも興味を持たず、利用しようともしない人の情報力は、数十年前と変わりがない。だから、両者の間に、超えることのできない絶大な情報力格差が生じたことになる。

 このサービスを利用するのは、「利用の方法」などということを書くまでもないほど簡単だ。NYTのウェブサイトを開き、上部にある検索窓口に検索語を入れるだけでよい。それによって、魔法の世界への扉が開かれる。

 対象期間は、1851年から1922年までと、1987年から現在までだ(中間の年次については、記事の概要が表示されるのみで、記事内容は有料になっている)。なお、続けて何度も検索すると、登録を行なうよう要求される。簡単な項目を入力するだけなので大した手間ではないが、「登録は嫌だ」という人もいるかもしれない。その場合には、一度接続を切って再度開けばよい。そうすれば、登録せずに検索・閲覧ができる。

 1922年までの記事は、紙面をそのままコピーしたpdfとして現れる。写真もイラストもなく、古めかしいフォントの活字だけの紙面だが、その内容はめっぽう面白い。

 南北戦争は公開記事の期間中なので、さまざまな記事が読める。大陸横断鉄道完成の日の号外もある。東と西から建設を進めてきた線路が、1869年5月10日、ユタ州のプロモントリー・サミットで出会い、前カリフォルニア州知事でセントラル・パシフィック鉄道の社長、リーランド・スタンフォードが最後の犬釘(純金製で「ゴールデン・スパイク」と呼ばれる)を打ち込んだ。その日の人々の興奮が伝わってくるような紙面である。

 日本人の立場から見て、この期間で一番読みたい記事は、1905年の日本海海戦だろう。同年6月2日付けの記事がある(この件は、『週刊ダイヤモンド』の「超整理日記」第410回に書いたが、もう一度書かせていただきたい)。佐世保に帰還した日本海軍士官のインタビュー記事だ。とにかく、3日前には撃ち合いをやっていた人の証言だから、その迫力たるや、資料を使って100年後に書かれた『坂の上の雲』の比ではない。

 「本日天気晴朗なれども波高し」とか、「皇国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ」などという言葉が、すでにこの記事に現れていることに驚く。「近づいてくるロシア軍艦艇の甲板には、生物の姿は見えなかった」という記述もある。砲撃戦の直前に猫や人間が甲板をうろついているはずはないから、当然といえば当然のことなのだが、そう言われてみると、「たしかに現場にいた人の証言だ」と改めて納得する。巨大な鉄の塊が、無愛想に突っ込んできたわけである。その異様な光景を想像すると、総毛が逆立つような気分に襲われる。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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