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野口悠紀雄が探る デジタル「超」けもの道

信頼に基づくクラウド・コンピューティングが未来をつくる

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【最終回】 2008年11月29日
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 クラウド・コンピューティングは、1970年代までのコンピュータ・システムであった中央集権的メインフレーム・システムの復活なのであろうか?

 一見したところ、そのように見える。メインフレーム・システムでは、中央に強力なコンピュータがあり、それに端末がぶら下がっていた。クラウドの場合も、中央に強力なコンピュータがあり、それに接続するシンクライアントは、ほとんど情報処理能力を持っていない。

 IT革命によってもたらされたクライアント・サーバ・システムは、クライアントが単なる端末でなく、計算能力を持っているということがポイントだった。しかし、シンクライアントとは、結局のところ、端末に過ぎないのではないのか? 個々のコンピュータが独立して仕事を進められる分散システムが、一度は実現したにもかかわらず、中央に支配される集権システムに退化してしまうのではないか? このような疑問が生じる。

 しかし、私は、そうではないと思う。メインフレーム・システムとクラウド・コンピューティングは、つぎの点で大きく異なるからだ。

 それは、システムが閉鎖的か否かである。メインフレームは閉鎖的なシステムだった。契約している企業しか使えなかったのである。そして、階層性が高いものだった。つまり、組織の中の「偉い人」しか使えなかった。1970年代、私がエール大学の学生だったとき、教授の部屋には、タイムシェアリング(※注)の端末が来ていた。しかし、学生が使うわけにはいかなかった。学生は、コンピュータ・センターに行って使う必要があった。

 私は、1971年に、始まったばかりの「日経NEEDS」を大蔵省に導入して使っていた。これは、日本経済新聞社が提供するタイムシェアリング・システムで、データベースや計量モデルなどが端末から利用できる。これが利用できたのは、大蔵省という大組織にいたからである。料金が高すぎて、とても個人が使えるような代物ではなかった。

 これに対して、クラウドは開放的だ。しかも、料金は無料、または著しく安い。クラウドはしばしば電力にたとえられるが、重要な違いは、個人や小企業ならタダで使えることである。しかも、1つのシステムに縛られることはない。複数の供給者が提供するシステムを同時並行的に使うこともできる。だから、供給者間の競争は維持されている。

 中央に位置しているコンピュータは、かつては神様だったが、いまはそうではない。「サーバー」という名が示すとおり、召使いなのである。

※注: 大型コンピュータを複数の端末から同時に使えるようにしたシステムのこと。CPUの処理能力を細かい時間単位に分け、交代で各端末に使わせることで実現している。

グーグルは
ビッグ・ブラザーになるか?

 そうはいっても、膨大な情報がクラウド・コンピューティングの提供者に集まることは間違いない。

 とくにグーグルは、世界中の個人情報を握り、世界を支配する潜在力をすでに手に入れていると見ることができる。グーグルは、その力を利用して世界を支配するだろうか?

 ジョージ・オーウェルは、『1984年』のなかで、「ビッグ・ブラザー」と呼ばれる全知全能の支配者が、全国民の全生活を監視している様を描いた。支配の道具は「テレスクリーン」と呼ばれる双方向のテレビジョンだ。これによって、市民の行動は一日中「真理省」に監視される。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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