職場にはさまざまな仕事があるが、なかには、どれだけ成果を上げても評価につながらない、「雑用」に近い仕事もある。筆者らの研究によると、そうした仕事は多くの場合、女性が主に処理しているという事実が判明した。こうした現状は、雑用を引き受けた本人にとってはもちろん、企業にも重大な不利益をもたらしている。


 職場で、こんな場面によく遭遇しないだろうか。

 会議中、マネジャーがあるプロジェクトの話を持ち出し、担当者を決める必要があると言う。特に難しくないが時間がかかり、収益の向上には貢献しそうになく、おそらく業績評価の対象にもならない仕事だ。

 マネジャーがプロジェクトの説明をして、引き受けてくれる人はいないかと聞くと、あなたも同僚も黙り込み、気まずい空気が漂う。誰かが手を挙げてくれないものかと願っているのだ。時間が経つにつれ、空気はますます重くなっていく。誰かがついに口を開いた。「わかりました。私がやりましょう」

 我々の研究は、このように仕事を渋々引き受ける志願者は、男性より女性のほうが多いことを示唆している。現地調査と実験室での調査の両方を通して、女性は男性よりも「昇進につながらない」仕事を進んで引き受けること、女性のほうがその種の仕事を頻繁に頼まれ、かつ、頼まれたら引き受ける可能性が高いことがわかったのだ。

 これらは、女性にとって深刻な影響を及ぼす。注目度や影響力のない仕事を必要以上に押しつけられたら、職場での昇進にいっそう長い時間がかかってしまうからだ。我々の研究は、なぜこうしたジェンダーによる差が起こるのか、マネジャーが、この手の仕事をより公平に割り当てるにはどうすべきかを説明する。

昇進につながらない仕事とは?

 昇進につながらない仕事とは、組織の利益になる半面、個人の業績評価や昇進には貢献しないと思われるものを指す。そこには、クリスマス・パーティの企画のように昔から職場にある「雑用」が含まれるほか、同僚の仕事の穴埋めや下部の委員会の役員、高度なスキルは求められず大きな成果ももたらさない日常業務といった、広範な仕事が含まれる。

 昇進につながらない仕事は、分野やキャリアによって多岐にわたる。たとえば、産業界では、収益を生まない仕事よりも収益を生む仕事のほうが昇進につながる。かたや学究的な世界では、サービス関連の仕事よりも研究関連の仕事のほうが昇進に役立つ。また、個人レベルで見ると、若手社員にとっては昇進につながる仕事も、上級マネジャーの昇進にはつながらないおそれがある。

 産業界と学界における調査(アイリーン・ド・パテールと同僚のチーム、サラ・ミッチェルとヴィッキー・ヘスリのチーム、ジョヤ・ミスラと同僚のチームなどによる多くの調査)によって、仕事の割り当てには、組織内でジェンダーによる差があることが明らかになっている。すなわち、男性よりも女性のほうが昇進につながらない仕事に費やす時間が長い半面、昇進につながる仕事に費やす時間が短いのだ。

 この差は、きわめて重要である。なぜなら、女性の学歴が著しく高まり、一般的な職場での活躍が進んでいるにもかかわらず、男女の昇進の仕方には依然として、歴然とした大きな差が存在する理由を説明する一助となるからだ。女性の仕事のポートフォリオが昇進につながる可能性の低い仕事で構成される限り、女性の昇進は男性よりずっと後れを取ることになるだろう。

 昇進につながらない仕事の内容は職種によって異なるが、1つの職種の中でどの仕事が昇進につながり、どの仕事が昇進につながらないかについては、一般的な合意が存在する。

 たとえば、カーネギーメロン大学の教員48人を対象に調査したところ、助教授は、自由に使える時間を委員会の仕事(学部の評議委員会のメンバーになるなど)より研究に費やしたほうが昇進の可能性が高まると、90%の人々が合意している。また、米国の公立大学の大規模なデータを見ると、学部評議委員会の仕事を引き受けるかと聞かれた教員3271人のうち、引き受けると答えたのはわずか3.7%だったが、女性が引き受けた割合は7%だったのに対し、男性は2.6%だった。

 もちろん、男性に比べて女性のほうが昇進につながらない仕事を買って出る理由は、多数存在する。男性よりも女性のほうが、この手の仕事が得意だからかもしれないし、より楽しめるからかもしれない。これらの説明を検証すべく、我々はピッツバーグ大学経済学部の実験室(PEEL)で一連の実験を行った。調査には、合計696人のピッツバーグ大学の学部生が参加した。