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連載経済小説 東京崩壊
【第22回】 2012年5月2日
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高嶋哲夫 [作家]

移転場所

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【前回までのあらすじ】
地震から2日ぶりに部屋に帰った森嶋は、部屋を片付けたあと高脇論文を読んだ。そこには、〈マグニチュード5から6クラスの地震を繰り返しながら、最後にマグニチュード8クラスの巨大地震が起こる〉と書かれていた。森嶋は急いで高脇に電話する。研究所の高脇の部屋に入ると、高脇を含めて5、6人の研究員が集まっていた。
「大地がウォーミングアップしている。そして、いずれマグニチュード8クラスの巨大地震が来る」と説明する高脇。そんなとき森嶋の携帯に理沙から連絡が入る。
森嶋と優美子は理沙に会うことに。理沙は、政府が高脇のレポートを事前に入手していたのに公表しなかったのではと、2人に取材する。高脇論文の内容について説明する森嶋。すると理沙の携帯に同僚から電話が。高脇が研究室から姿を消したという。森嶋は高脇が研究室からいなくなったことに不安を覚える。
翌日、首都移転チームは定時の30分前には全員がそろっていた。首都移転について懐疑的なメンバーに対し、村津はメンバーたちに首都移転に関するプレゼンの映像を見せ、「君たちが歴史に残る首都を築きあげるんだ」と鼓舞する。森嶋はその光景を見て、部屋中の意思が一つの方向に進みつつあるのを感じた。
その日の午後、森嶋は村津に呼ばれ、ある人物のもとに車で向かう。車は六本木のインテリジェントビルの前で止まった。行先は長谷川建築設計事務所。村津の娘、早苗が勤めている事務所だった。村津が森嶋を長谷川に紹介した。長谷川は白髪混じりの長髪と髭面の男で、世界的に有名な建築家だった。そこには、新首都と思われる模型が置いてあった。行政機構の効率に重点を置いた新しい町だという。

 

第2章

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 森嶋はもう一度、眼前の首都模型を見つめた。

 シンプルで機能面ばかりを押し出した町だ。

 長谷川はさらに続けた。

 「町の規模は20万人。電車で30分以内の衛星都市には100万人規模の町を造ります。エネルギーは自然エネルギー、太陽光、風力を中心にしたスマートグリッドの町を考えています。この町の車はすべて電気自動車で、小型の電源にもなります。給電所はスーパーやコンビニ、マンションの駐車場で出来るようにします。町の中心にある箱型の建物が国会議事堂です。この町の建物の壁は半分以上に太陽パネルを設置します」

 「たしかに新首都ですね」

 思わず出た言葉だった。

 「未来都市のモデルとも考えています。この方式だと前回出した予算のほぼ5分の1で出来ます。維持費は半分以下です」

 森嶋は改めて町の模型を見つめた。東京とはまったく違う町だ。

 東京は丸の内、銀座周辺を中心に、渋谷、新宿、池袋と広がっていった無秩序で混沌とした町だ。だが目の前の町は秩序があり、穏やかで理論整然とした町だ。しかし――。

 「首都とはもっと重みのある、荘厳な都市。国と国民を象徴するもの。そう思ってるんでしょ」

 早苗が森嶋に向かって微笑みながら言った。

 森嶋は言葉に詰まった。まさにその通りだったのだ。

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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