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連載経済小説 東京崩壊
【第29回】 2012年5月21日
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高嶋哲夫 [作家]

ロバート

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【前回までのあらすじ】
殿塚、大野ら与野党の大物議員が参加する超党派勉強会の名称は「新日本改造研究会」。道州制、首都移転、アメリカ型の小さな政府を実現し、新しい日本を造るのが目的だという。それを聞いた森嶋は、国交省に入った当時、超党派国会議員の「道州制を実現する会」があったのを思い出した。日本では夢物語だというのが森嶋の本音だった。日本国民は保守的すぎるし、東京への思いが強すぎる。さらに、中央政府や省庁の権限と規模を小さくする話なので、政治家と官僚の反対は目に見えている。強力な指導者が必要だが、現れそうもない。しかしアメリカで政治機構を勉強すると、日本の進むべき一つの姿が見えてきたような気もした。過去を継承するだけでは未来はない――。彼らが熱く語る姿を見て、森嶋は身体の中に熱いものが込み上げてくるのを感じた。一方、能田総理は官房長官と今後の対応策について話し合った。地震後初の世論調査で能田政権の支持率が大幅に低下。首都直下型地震に対して政府は準備不足で危機対応がなっていない、もっと迅速に的確な対応が出来たはずだとマスコミに叩かれたのだ。このままでは政権の維持が危うい。もしこの先、東海・東南海・南海地震が連動して起こり、首都機能が喪失するようなことがあれば、日本は完全に麻痺する。それだけは断固避けなければならない――。そのとき能田総理の頭に一つの妙案が浮かんだ。これは自分の名を後世に残す最大のチャンスかもしれない。総理は首都移転の現実化を検討するべく、秘書たちに矢継ぎ早に指示を出した。すぐに能田総理と村津の面談が整えられた。自らの在任中に遷都を実現させたい総理は、村津に首都移転するのにどれくらい時間がかかるのか質問する。村津は15年と答えるが、総理は6年で実現するよう村津に要望するのだった。

 

第3章 

 昨夜、植田に連れられて行った、中華料理屋での殿塚をはじめとする政治家、大学教授との会合が終わり、森嶋がマンションに帰ったのはちょうど日付が変わる寸前だった。

 どうせ眠れないでしょ、という早苗の言葉に反して、シャワーを浴びてベッドに横になり1日のことを思い出そうとしていると意識はなくなっていた。自分で思う以上に緊張して疲れていたのだろう。

 今朝、目覚めて思い出すと、六本木の建築事務所の首都模型、長谷川と早苗たち建築家グループ、殿塚ら与野党の重鎮、超党派の研究会、道州制、すべてが漠然とした夢のように頭の中を流れていく。しかし現実には、それらすべてが複雑に絡み合い、反発、同調しながら進んでいるのだ。

 顔を洗っていると、洗面台の端に置いてある携帯電話が鳴り始めた。

〈今、何してる〉

 森嶋が送話ボタンを押すと同時に、ロバートの能天気な声が聞こえてくる。

 「顔を洗ったところだ」

 森嶋は右手で携帯電話を耳にあてたまま、左手にタオルを持って顔を拭きながら言った。

 キッチンに戻り時計を見ると、午前7時だ。ワシントン時間は午後6時。大統領スタッフにとって、勤務時間などあってないようなものなのだろう。

〈面白い話を聞きたくないか〉

 「今は時間がない。メールをくれ。これから役所に行くところだ」

〈日本にとって重要な話だ。ホワイトハウススタッフの情報と、今日のお前の仕事とどっちが大事か考えろ〉

 「話してくれ。手短に頼む」 

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    高嶋哲夫 [作家]

    1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
    1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
    日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


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