トランプ大統領が拍車をかける「テクノ封建制」の恐るべき輪郭、AIとクラウド資本が支配する新時代へ今年1月のトランプ米大統領就任式には「テクノ領主」が集結 Photo: Reuters/AFLO

『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、トランプ米大統領の再登場とクラウド資本がもたらす新たな支配の構造です。市場経済を超えて人間や国家に影響を及ぼし始めた「テクノ封建制」の輪郭に迫ります。

 ネオリベラリズム(新自由主義)は、50年前に台頭したとき、新しいわけでも、特にリベラルなわけでもなかった。その最大の強みは、古典的リベラリズムから大きく逸脱していた点にある。リベラルな思想家たちに敬意を表してはいたが、新自由主義は彼らの方法論も、市場の概念も受け継いではいなかった。そして今日、我々は再び、同じくらい根本的なイデオロギーの革新の瀬戸際に立たされている。 

 アダム・スミスやジョン・スチュアート・ミルとは異なり、新自由主義者たちは、自由な市場がどのような条件のもとで私的な利潤追求を社会全体の繁栄へと変換できるのかを、理論的にも実証的にも示す責任を感じていなかった。彼らにとって、「見えざる手」は神聖であり、無謬(むびゅう)であった。たとえ市場が失敗しても、それを何らかの集団的な手段で是正しようとする試みは、より恐ろしい失敗に終わる運命にあると彼らは主張した。ウォール街にぴったりの態度だった。

 1970年代は、金融市場を完全に規制緩和した結果に関する現実の証拠に対して、こうした教義的な無関心をまさに欲していた時代だった。米国が経常赤字国となり、リチャード・ニクソン大統領が1971年に米ドルと金との兌換(だかん)を停止するショックを与えた後も、その後の政権は、財政赤字や貿易赤字を抑えるのではなく拡大することで、米国の世界的覇権を強化する道を選んだ。

 予想どおり、ウォール街の金融機関は、米国の赤字によって生じた需要で莫大な利益を得た外国の輸出業者たちが手にしたドルをリサイクルする(米国債や株式、不動産へと再投資させる)という重要な役割を担わされることになった。だが、この大胆な世界的余剰資金リサイクル計画の中心となるためには、銀行家たちは規制の束縛から解き放たれる必要があった。つまり、1929年以降、「暴走するウォール街」を恐れるよう教え込まれてきた議会や国民を、再教育しなければならなかった。規制なき市場の神性を賛美する新自由主義の原理主義的な信条体系は、「法と経済学」運動の影響力の高まりと相まって、まさにその要件を満たしていた。

 今日では、新たな形態の資本(すなわちクラウド資本、あるいは人間の行動を変容させる驚異的な力を持つネットワーク化されたアルゴリズム機械)の台頭が進んでいる。そして、この資本が完全に解き放たれるためには、それにふさわしい新たなイデオロギーが必要とされている。私はこの新たな体制を「テクノ封建制(technofeudalism)」と呼んでいる。クラウド資本によって駆動されるこの生産と分配の新たな様式は、市場をアマゾンのようなクラウド領地(cloud fief)にすげ替え、資本主義の利益をクラウド地代(cloud rent)に置き換えていく。

 クラウド資本の持つ力を最大限に引き出すために、その所有者たち(ジェフ・ベゾス、ピーター・ティール、マーク・ザッカーバーグ、イーロン・マスクのような人物)は、新たなイデオロギーを必要としている。かつてウォール街の金融業者がニクソンショック後に新自由主義を必要としたように、この新しいイデオロギーは、クラウド資本の勢力拡大を支える3つの柱を備えていなければならない。