売り上げや利益だけで事業の成否はわからない!真の成功を測る“価値のコンパス”NSMとは?プロダクトの真の成功を測るコンパス「NSM(北極星指標)」とは(写真はイメージです) Photo:PIXTA

事業の成果をどう定義するのか。その手応えをどう判断するのか。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏が、売り上げだけでは見えないプロダクトの真の成功を測る「NSM(北極星指標)」について解説。価値の本質を捉える新たな評価軸とは。

なぜ売り上げや損益だけでは
真の成功が測れないのか

「この事業は本当に成功しているのか?」経営層からこう問われた際、明確な指標で根拠を示せますか。もし答えられないなら、それは適切な成功指標がないことを示しています。

 以下は、ある急成長中のSaaSスタートアップの事例です。中堅企業向け業務支援ツールを提供するこの企業は、高いカスタマイズ性をウリに契約を獲得していき、導入社数や売上といった指標は順調に伸びていました。

 ところが、ある時期から社内で奇妙な声が上がり始めました。

「サポートへの問い合わせが、導入初期の“使い方が分からない”といったものばかりになってきた」
「プロダクトをちゃんと使ってくれるユーザー数が、導入数に比例して伸びない」

 開発チームや製品企画チームが詳しく調べてみたところ、ユーザーからは「UIが複雑で使いこなせない」「導入研修後は現場任せになり、誰も使わなくなった」という声が上がっていました。導入数は増加しているのに、実際は使われていない。これはプロダクトとしては深刻なサインです。

 それでも経営陣は「売上指標は好調」「PL(損益計算書)上は黒字」と問題視しませんでした。こうして「売れているから成功している」と誰もが信じる空気の中、プロダクトの価値は少しずつ毀損されていったのです。