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通勤電車で泥酔客から女性を救ったら、骨折した挙げ句に「労災」は認められず。トー横キッズの相談に乗っていたら、理不尽な暴力で死亡……。どんなに善いことをしても、いざというとき法が守ってくれるとは限らない。人情がアダとなってしまった、実際の事件をみてみよう。※本稿は日本経済新聞「揺れた天秤」取材班『まさか私がクビですか?なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日本経済新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

通勤電車で泥酔客から
女性客を救ったら……

 2019年12月、日曜日の未明。

 山手線の車内は平日と比べれば幾分すいていて、立ち客もまばらだった。飲食店に勤務する50代の男性は空席を見つけて腰を下ろした。

 1日の勤務を終えると、決まってこの電車で帰路につく。電車はほぼ定刻に駅を出た。

 隣駅に差し掛かったあたりで異変に気付いた。向かいの席に座る中年の男が隣の女性に顔を近づけていた。随分酔っているらしい。けげんそうな表情を浮かべる女性。女性の携帯電話をつかむなど男の行動はエスカレートしていく。

 女性は終始無言だったが、助けを求めて周囲に目配せしているようにも見えた。注意する人は現れない。

「他に助ける人がいないなら」と男性は席を立ち、男に「何をしてるんですか」と尋ねた。男は寝入ったそぶり。女性に警察を呼ぶかと聞いたが固まったまま返答はなかった。

「怖さでどうしていいかわからなくなっている」。