今年6月末、旅行業界は久しぶりの朗報に沸いた。日本旅行業協会(JATA)が四半期ごとに発表する海外旅行DI(景気動向指数)の2012年6月期(4~6月)が「+4」となり、5年9ヵ月ぶりに“プラス”に転じたのだ。国内旅行DIも「-2」と2008年9月以来の“マイナス1桁”となった。

チャーター機で北極点を巡り、ゴッホを貸し切り鑑賞<br />「特別な体験」「時短」が海外旅行復活のキーワード

 DIとは、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。日銀の企業短期経済観測調査(短観)が有名だが、これは、JATA会員の旅行会社の経営者たち(対象624社)が答える、いわば短観の旅行業界版だ。燃油サーチャージの高騰、2008年9月のリーマンショック、昨年の震災などの影響で、苦戦続きだった業界にも、ようやく一筋の光明が差してきた。

 消費の主役は団塊世代のリタイア組を中心としたシニア層だ。海外個人旅行では「+9」、国内個人旅行では「+14」と、2012年6月期にいち早くマイナスから抜け出した。OLやファミリー、学生など他のターゲット層はいまだにマイナス。現状では、その“金の鉱脈”ぶりが否応なしに目立ってしまうのだ。

 ただし、団塊世代は現役時代に、海外を含め数多くの旅行をし、場合によっては、海外赴任の経験もある人たちである。ただ単に名所を巡ったり、グルメを楽しんだりするだけのツアーでは、触手が動きにくい。旅行業者は「目の肥えた客」の心を掴むような旅を提供しなければならないのだ。

 旅行業者もそのへんは心得ている。JTBグループで、シニア向け海外ツアーの専門会社であるJTBグランドツアー&サービスでは、北極点に行くツアーを6月22日から発売開始した。定期便でノルウェーまで行き、そこからチャーター機とヘリコプターを乗り継ぎ、北極点に1時間半滞在するというもの。従来、北極点には砕氷船で向かうのが主流で長期間かかるが、このツアーなら5日間で行ける。

 また、同じ6月22日には、インドのガンジス川とタージ・マハールをプライベートジェットで巡るツアーも発売した。通常、タージ・マハールには、首都デリーからバスで6時間以上かけていく。しかし、プライベートジェットを使えば約40分でひとっ飛びだ。

 北極点ツアーは300万円、インド・プライベートジェットツアーは約100万円といずれも高額。JTBでは、「目の肥えた団塊世代のお客様の中には、一般ツアーにはない“特別な体験”を求めている方が多くいる。その体験をして、友人・知人に話したいという欲求もある。多少料金が高くても、価値を見出していただける」と、話す。

 国内旅行でも、HISが子会社の長崎ハウステンボスで開催中の『幻のゴッホ展』を貸し切り鑑賞できるツアーを6月22日に発売開始した。『幻のゴッホ展』は混雑が予想され、絵を見るのにも並んで待たなければならない可能性が高いが、貸し切りなら効率的に鑑賞できる。

 HISの担当者は、「単なる味覚や名所巡りでは、お客様を集めにくくなっている。やはり、その旅行業者ならではの特別なツアーに人気が集中する傾向がある」と話す。特に東京在住のシニア層の反応が良いそうだ。

 いずれのツアーも時間を短縮できる「時短型」であることが特徴だ。無意味な移動時間や待ち時間を減らせるなら、多少料金が高くてもいいと考える団塊世代は多く、それをチャーター機やヘリコプター、プライベートジェット、貸し切りなどの特別な体験によって実現するところに、これらのツアーの妙がある。“時短”と“特別な体験”を巧みに両立させたツアーは、今後も人気となりそうだ。

(大来 俊/5時から作家塾(R)