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イノベーターのための問題解決法

洞察をリフレームする:
インサイトからデザインツールを仕立てる

白根英昭 [大伸社取締役]
【第8回】 2012年7月27日
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どちらの表現のほうがわかりやすいですか?

 

A 欲しい情報を手に入れるためには妥協しない。

B 自分が欲しい情報が日本にはないことがわかった本間さんは、イタリア語の辞書を片手に何週間もかけて現地のwebサイトをチェックし、ミラノのインテリアショップを探し出しました。その店のスタッフにメールで問い合わせたところ、すぐに丁寧なメールがかえってきたのでした。

 

Aの文章は、物事のポイントを短時間で理解するときに大変便利です。しかし、小説の中身を箇条書きにしたリストを読んでもその小説がわかったことにならないように、物事の本質を深く理解するためには、頭だけではなく、心のレベルで物事を理解する必要があります。そのためには、Bのような生き生きとした描写のほうが有効です。

 獲得したインサイトを共有する場合も同じです。人々の感情に働きかける表現が与えられることによって、インサイトをより深いレベルでコミュニケートすることが可能になります。

インサイトからペルソナをつくる

 前回はデータからインサイトを獲得し、問題の枠組みを変えるステップについてご説明しました。獲得したインサイトは、さまざまな方法で共有し、活用することが可能です。その中でも、「一人の人物についての物語」というフォーマットを持つペルソナは、質的な深さとわかりやすさを兼ね備えている点でとても優れています。今回は、人間中心イノベーションのツールとしてペルソナをご説明したいと思います。

 ペルソナは、エスノグラフィーで獲得したインサイトを、一枚のシートを使って一人の人物の物語形式でまとめたユーザーのアーキタイプ(元型)です。もともとは1990年代にデジタル製品の開発ツールとしてアラン・クーパーによって考案されました。

 多くの人に喜ばれようとしてさまざまなニーズを同時に満たそうとすると、結果的に誰にとっても使いにくい製品になってしまいます。その逆に、一人の人物のニーズや行動に沿ってデザインすることによって製品全体に一貫性がもたらされ、結果的に多くの人々に喜んでもらえる、というのがペルソナの考え方です。

 ペルソナが他のツールと大きく異なるのは、獲得したインサイトをひとつの物語として表現する点にあります。

 前回、観察で得たデータを文脈から切り離さなければ多様な見方ができないという説明をしました。ペルソナは逆に、獲得したインサイトを「一人の人物についての物語」という文脈に戻すことで、納得や共感を深め、感情レベルまでブレのない解釈ができるようにします。人間中心イノベーションにおいて、ペルソナは、部門を超えて問題の枠組みをとらえ直すための重要なコミュニケーションツールになります。

 同時に、ペルソナは、顧客の心の中に入り込み、顧客視点でアイデア発想することをサポートします。ペルソナの世界に浸ることによって、データとしては存在しない状況を誰もが想像し、理解できるようになります。ペルソナは単にインサイトをまとめたレポートではなく、顧客視点で革新的なインスピレーションを獲得するためのメタファーとして機能します。

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白根英昭 [大伸社取締役]

1963年大阪生まれ。1988年大伸社に入社。2002年にペルソナやエスノグラフィー等のデザインリサーチに基づくイノベーションサービスを開始。2004年より同社m.c.t.事業部取締役。一橋ビジネスレビュー(2007年) 、 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(2010年) などに寄稿。2008年から 関西の産官学共同によるソフト技術者の養成塾で講師を担当。ペルソナ&カスタマエクスペリエンス学会理事。

 


イノベーターのための問題解決法

イノベーションを意図的に生み出すのは簡単なことではない。どのようにすれば組織的に、繰り返しイノベーションを生み出すことができるのか。エスノグラフィーの活用による人間中心イノベーションに、ひとつのヒントがある。この連載では、エスノグラフィーを使って問題をリフレームし、飛躍的なイノベーションへと結びつけていく方法を紹介する。

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