「海外旅行者右肩上がり」のマジック

ちきりん ちなみに、『地球の歩き方』の事業は、最初からけっこうヒットしたんですか?

石谷 学生さんの評判はけっこうよかったですね。

ちきりん ニーズが合っていたということでしょうか。

石谷 こういう本がなかったんですね。じつは最初の最初は旅行業の免許をもっていなかったのでJTBさんと組んでやろうとしたんだけど、最初は断られました。「1ヵ月も自由に旅行させるなんてことに責任持てない」ということで……。

ちきりん それはいつ頃のことですか?

石谷 1974年くらいでしょうか。そして、最初に出したのがヨーロッパ編とアメリカ編で、1979年のことです。

ちきりんさんも「地球の歩き方」のライターだった!?1980年版『アメリカ編』『ヨーロッパ編』のカバー

ちきりん シリーズとして、売上の冊数がどーんと増えてきたのはいつごろから?

石谷 80年代は順調に伸びてきて、いちばん伸びたのが90年代ですね。バブルがはじけたあとくらいです。

ちきりん バブルがはじけたあとっていうのは、何か理由があるんですか?

石谷 旅行者が増えていましたね。景気は減速気味だったけど、海外旅行者は右肩上がりでした。

ちきりん なるほど。パスポートを新しくとって海外旅行に行く人が増えたということなんですね。

石谷 あと、バブル期に初めて海外旅行に行った人がたくさんいたんで、そのリピーターでしょうね。1回経験すれば、2回目以降は行きやすくなりますから。その頃の海外旅行って、1回目のハードルが高かったので。

ちきりん そうですよね。私の年代は学生で初めて海外旅行に行っているので、その後はまったく抵抗感がないですけど、その前の世代で海外に行かずに働いていた方には、ちょっとハードルが高い感じでしたね。

石谷 そして、バブル期以降もだんだんと増えてきました。

ちきりん いまも増え続けているんですか?

石谷 増えてますね。

ちきりん そうなんですか、すごいですね。よく「最近の若者は旅行しない」っていうじゃないですか。パッケージで海外に行くシニアはよく見かけますけど。日本人の海外旅行者数は、ここんとこもうそんなに増えていないんですよね?

石谷 このままいけば、今年はピークを更新しますよ。

ちきりん そんなに多いんですか?

石谷 たぶん今年は1850万人から1900万人くらいになりそうな勢いです。

ちきりん そうなんだ。ところで、普通の人はどれくらい頻繁に海外旅行へ行くんでしょうね。3年に1回くらいは行くという人が多いんでしょうか?

石谷 たしかにリピーターがいるでしょうね。年に1回っていう人も意外に多い。逆に、初めて行くっていう人がすごく少なくなっていますね。

ちきりん リピーターのパーセントってわかりますか?

石谷 細かくは把握できないんです。旅行業界の人たちの話を聞くと、リピーターが増えているっていう印象があります。

ちきりん ざっくり何パーセントがリピーターでしょう?

石谷 半分以上じゃないでしょうか。1200万人くらいがリピーターだといわれています。

ちきりん 全体の1900万人っていう数字には、ビジネスマンの海外出張なども入っているんですよね。

石谷 全部入っていますね。出国者数ですから。

ちきりん では、1900万人のうち正味の実数としてはどのくらいの人が旅行に行っているんでしょうね。1年に2回行ける人はそんな多くないのかな?

石谷 そうでしょうね。

ちきりん 1年に2回の海外旅行に行くって、働いている人にはけっこうたいへんですよね。引退したとか、ビジネスで行くのでないと。現役で仕事しながらとか子育て中だと、ちょっとたいへん。

石谷 そうですね。

ちきりん 一方、中国や台湾、韓国のソウルとかは、いまは週末でも気軽に行けますよね。1年間に何回も行ってらっしゃる方もいそうです。

石谷 そのような方の出国者数への貢献が大きかったのは事実ですね。

ちきりん なるほど……。だとするとマーケットとしては年1900万人ですが、実人数となると500万人くらいしか海外に行っていない可能性がありますよね。

石谷 そこまで少ないとは思いませんが、年に複数回行くリピーターを加味すると、実際には半分くらいの人数にはなるかもしれないですね。

ちきりん ほんとにざっくりですけど、年に1回渡航する人が600万人で、その半分が初めての海外旅行者。年に2回、海外に行く旅行好きな人が200万人、出張も含めて1年に4~5回海外に行く人が200万人とすると、合計1000万人くらいの人が海外に行っていて、合計渡航回数は1900万人になる、という感じなのかな……。

石谷 なるほど。そういう考え方もできますね。