国会では急転直下、消費税増税法案が成立した。野田首相は民主党の事情より消費税増税を選んだ。衆目監視の密室会談は「解散時期」にとどまらず、解散後の協力関係まで話し合われたのではないか。政権交代から3年、天下を取ったのは「とりあえず増税党」だった。これで民主党の崩壊が加速しそうだ。
自民党の強硬姿勢に
危機感を抱いた財務省
自民党が3党合意破棄の強硬姿勢に転じたことに、最も危機感を抱いたのは財務省だった。政治を消費税増税へと導き、採決の直前まで漕ぎ着けたというのに、土壇場でひっくり返ったら血の滲むような努力が帳消しになる。勝栄二郎次官を中心に官房に「対策本部」を置き、培ってきた財務省人脈を駆使して自民党強硬派を抑え込んだ。
財務省をヒヤッとさせた自民党内の動きは小泉純一郎元首相が本尊で、切り込み隊長は息子の進次郎衆議院議員。原動力は党内にくすぶる世代交代論、と読んだ財務省は、若手の動きを警戒する重鎮議員に働きかけた。「増税をつぶしたら国際的信用を失います」「格付けが下がり長期金利が跳ね上がる」。小泉親子の策動は火遊びだ、と古参議員に決起を促した。世代交代の標的・森喜郎元首相ばかりか、懐かしい名前の額賀福志郎元財務相まで声を上げ「谷垣支持」の党内世論を広げ、火消しは成功した。
民主党対策は、「党と官邸の切り離し 」だった。輿石東幹事長周辺に財務省人脈は手薄だ。「早期解散反対」でまとまっている幹事長周辺から、妥協策を引き出すのは難しいと見て、自民党の交渉相手を首相官邸に絞った。官邸は「財務省支配」の牙城である。
民主党執行部を蚊帳の外に置けば、財務省シナリオは進めやすい。交渉役の野田首相・谷垣自民党総裁は「とりあえず増税党」の二枚看板だ。予算のやりくりは財務省の大事な仕事で、財政が深刻な状況になっているのは確かである。だが財政は、政治が目指すビジョンや幸福感を創造するための「道具」である。