ダイヤモンド社刊
1575円(税込)

 「意思決定には守るべきルールがある。重要なことで容易にコンセンサスを得られたときには、そのまま決定を行ってはならないというルールである。諸手を挙げての同意は、何も考えていないことを意味する」(『経営者に贈る5つの質問』)

 問題は、すべて複雑である。あらゆるものが、あらゆるものに、複雑に絡み合っている。あらゆる視点から見るには、あらゆる異論を必要とする。

 そもそも、簡単な因果律で全容を明らかにできるような単純な問題は、経営会議の議題にはなっていない。

 一つの事実を与えられればもう一つの事実が明らかとなり、やがて論理の力によってすべてが明らかにされる─。近代合理主義は、科学技術の発展を通じて、人と社会を豊かにはしたものの、そもそものはじめから、限界のある方法論だった。デカルトの『方法序説』は、序説のままに止まった。

 事実、大小さまざまな事業上の問題のほとんどが、全体を全体として把握しない限り、解きようがない問題である。

 世界は機械的な存在ではない。あたかも命あるもののごとき有機体である。生きた存在としての世界を知るには、論理だけでは不十分であり、知覚が不可欠である。五感を澄まして、あらゆる角度からすべてを見なければならない。しかも、倫理観が必要である。

 もちろん、いかなる経営者、学者、天才といえども、あらゆるものを、あらゆる角度から見るようなことはできない。だが幸い、10人の目には10の角度から10の姿が見えるはずである。

 組織が行なわなければならない決定とは、重要であるだけでなく危険を伴う問題である。そこには無数の側面があり、意見は割れて当然である。まず行なうべきは、異論に耳を傾けることである。

 そのうえ、せっかくの意思決定も、その実行に向けて全員のコミットメントがなければ、いかなる意味も持ちえない。

「アリストテレスにさかのぼり、初期キリスト教会の教えとなった言葉がある。『本質において一致、行動において自由、すべてにおいて信頼』である。信頼をもたらすには、異論はすべて表に出さなければならない」(『経営者に贈る5つの質問』)

週刊ダイヤモンド