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シリコンバレーで考える 安藤茂彌

ITは雇用を生まずに所得格差だけを広げるのか?
米国の失業率が回復しない本当の理由

安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
【第59回】 2012年8月23日
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 今年は大統領選挙の年である。共和党大統領候補者として確実視されているロムニー氏と現職のオバマ大統領との間で激しい選挙戦が展開される見込みだ。争点はいくつもあるが、勝敗を左右するといわれているのが失業率だ。失業率が下がればオバマ大統領が有利、上がればロムニー氏に有利に働くといわれる。

 だが肝心の失業率がなかなか下がらない。2011年7月の9.1%から2012年6月には8.2%に下がったものの、7月には8.3%に上昇して国民の失望感を誘った。政府はリーマンショック以降、様々な景気刺激策を導入した。この春には大幅な金融緩和も行った。通常の不況であれば、ここで好転して失業率が下がるはずであるが、そうならない。

 10年間単位で見た雇用の伸び率は、1950年代から1999年までは20~30%の伸び率だったのが、2000年代に入ってから-1.1%の減少に転じている。2008年のリーマンショックの影響は大きかったが、それ以降の雇用の回復も極めて緩慢である点に注目が集まっている。

 雇用を早く回復させるには、どうすればよいのだろうか?いまアメリカの経済学者の間で様々な意見が交わされている。ポール・クルーグマン教授のように、「なりふり構わず需要を喚起すれば雇用は自然と回復する」という学者もいれば、タイラー・コーエン教授のように、「米国のイノベーションの鈍化と、グローバリゼーションによる新興国の競争力向上で、米国での雇用が回復しなくなっている」とする学者もいる。

 こうした状況の中、筆者の母校であるMITのスローン経営学大学院から二人の教授が当地に来て講演した。同校のデジタル・ビジネス・センターのエリック・ブラインジョルフソン教授とアンドリュー・マカフィー教授で、Race Against The Machine(機械との競争)の共著がある。ITの急速な発達によって労働市場の需給が大きく変化し、これが失業率の低下を困難にしていると主張する学者である。筆者は興味を持って出席した。

 歴史的な視点から見ると、Machineは時代によって変わって来た。産業革命初期には蒸気エンジンだった。その後電気が発明され、内燃エンジンが開発され、人力に頼っていた部分を代替してきた。いまMachineはコンピュータであり、ネットワークであり、デジタル技術である。ITが以前のMachineと違うのは、ITはまだ進化の途上にあり、どこまで進化するのか予測がつかないことである。

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安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]

1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。VentureAccessホームページ


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シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。

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