今、8月23日木曜日、午前10時だ。私はこれから未知の世界、アメリカへ向かう。2時間後には、小さなスーツケースを片手に、東京の宿泊先を出る。6時間後には、成田空港から、ボストンへ飛び立つ。

 誰にだって旅立ちはあるものだ。卒業があるように――。

母の気持ちに泣いた

 ちょうど10年前、知識も経験も語学力も、何も持たなかった18歳の私は、単身、中国へ向かった。今は亡き父が車を運転し、母親、弟、妹が成田空港まで私を送り届けてくれた。中高時代を過ごした山梨から成田空港へ向かったのだが、途中、東京都内で渋滞に巻き込まれ、危うく飛行機に乗り遅れるピンチに遭遇した光景を、昨日のことのように覚えている。

 そして、今日、母は10年前の再現をすると言ってくれた。

「10年前みたいに、空港まで送りに行くよ。よしくんにとって、新しいスタートだから」

 結局、介護の仕事をしていて多忙な母は、スケジュール調整が難しく、見送りに来ることはできなかったが、母のその気持ちだけでうれしくなり、泣いた。

 今回は10年前と違い、家族と一緒ではなくひとりで、山梨からではなく東京から、自動車ではなく電車で、新たな出発へ向かう。それだけ、自分が成長したということだろうか。その答えが出るのは10年後くらいだろう。

加藤家のキーマンは母だった

 本連載のきっかけを作った亡き父とは違った意味で、私にとって、母は特別な存在だ。私は、今の自分を形作った由来が5つあると思っている。

1、外の世界への意識を持ち続けられたこと。
2、自身を鍛えるランニングを続けられたこと。
3、健康を維持できたこと。
4、困難なとき、いつも理解者がいたこと。
5、どんなに辛くても、家族が離れ離れにならなかったこと。