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農業開国論 山下一仁

事故米の不正転売を許した
農水省“検査・販売体制”の落とし穴

山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)]
【第6回】 2008年9月19日
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 「責任は一義的には食用に回した企業にある。私どもに責任があると考えているわけではない」――。

 米粉加工会社「三笠フーズ」による事故米(カビ毒や残留農薬で汚染されたコメ)の不正転売が発覚してから2週間が過ぎた9月12日、農水省の白須敏朗事務次官が定例記者会見でこの発言をした。朝日新聞の報道によれば、テレビで繰り返し放映されたこの発言がもとで白須次官は町村信孝官房長官に官邸に呼びだされ、また、太田誠一農相も福田首相から、注意されたという。

 次官発言前にも、太田農相による「消費者はやかましい」「じたばた騒いでない」が世間から批判をあびていた。行政としては、むしろ不正行為を働かれた被害者という意識があるのだろう。しかし、三笠フーズだけが悪いのであれば、農水省としてなんら対策を講じる必要はない。三笠フーズだけではなく、次から次へと横流し企業が発覚していることは、売った側にも問題があるということではないだろうか? それを認めてこそ有効な再発防止策がとれるはずだ。

 率直に言って、事故米の不正転売問題に関する売り手である農水省の売却方法には首をかしげるようなところが多い。三笠フーズに対して、検査を都合96回実施したが、不正を見抜けなかったという。しかし、三笠フーズの帳簿だけで売却先を確認していたという。帳簿に、工業用のりの製造会社に売却したと書かれてあるならば、本来は農水省の担当者がその工場にまで出向いて確認すべきではなかったか。

 ただでさえ、事故米は通常の加工米に対して仕入れ値が6分の1から7分の1と極端に低く、トン当たりで1万円を切る。本来事故米に認められている“のり”など工業用途に売却する限りは1万円程度の実入りで薄利だが、アラレ煎餅や焼酎の原料としてならば5万円、食用米ならば値はさらに跳ね上がって25万円から35万円で売却できて、文字通り暴利を貪れる。横流しの誘惑は途方もなく高い。

 これだけ多くの企業が横流しをしたことを考えると不正が必ず起きると考えて対応すべきではなかったのだろうか? 過去に農水省はそのような対応をしていたのである。三笠フーズ等の企業だけが悪いということは、極端な話、つり竿に餌を吊るしておいて、食らいついてきた魚が悪いと言っているのと同じではなかろうか。

カドミウム米は
粉砕し着色まで施していた

 ただ、それにしても、なぜカドミウム米のときと同じ管理体制が敷けなかったのか、素朴に疑問を感じる。

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山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)]

東京大学法学部卒業。同博士(農学)。1977年農水省入省。同省ガット室長、農村振興局次長などを経て、2008年4月より経済産業研究所上席研究員。2010年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。主著に『日本の農業を破壊したのは誰か―農業立国に舵を切れ』(講談社)、『企業の知恵で農業革新に挑む!―農協・減反・農地法を解体して新ビジネス創造』(ダイヤモンド社)、 『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』(日本経済新聞出版社)、『環境と貿易』(日本評論社)など。


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