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めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

フローレンス行進曲のナゾ(2)

帝国の音楽か、チェコの音楽か

坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
【第5回】 2007年12月5日
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 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団によるフチーク作品集のタイトルは、K.u.K. FESTKONZERT ; Die schönsten Marsche und Walzer von Julius Fučík  である。

 K.u.K.とは、Kaiserlich und Königlichの略語で、Kが大文字だったり小文字だったりするが、皇帝および王という意味だから、オーストリア皇帝とハンガリー王の国、つまりオーストリア-ハンガリー二重帝国を意味する符丁のようなものだ。カー・ウント・カーと発音する。二重帝国の正式な連邦名はドイツ語でDie im Reichsrat vertretenen Königreiche und Länder und die Länder der heiligen ungarischen Stephanskroneと、ものすごく長い。略称はÖsterreichisch-Ungarische Monarchieになる。11の言語が使われていたといわれるハプスブルク帝国だが、1867年からはドイツ人とマジャール人(ハンガリー)が支配する、という意図だ。このCDの表題を日本語にすると、「二重帝国祝典演奏会」となる。

 被支配者だったチェコの演奏家は、なぜ祝賀風のタイトルにしたのだろう。

フローレンス行進曲の正しい原題は?

 シュンペーター(1883-1950)はこのような中欧の情勢の中でドイツ人としてモラヴィア(現チェコ)に生まれたわけだ。支配者であるドイツ人、帝国は燃え上がる民族独立の風によって明らかに斜陽。しかし、多言語多民族地域ハプスブルク帝国、そして帝都ウィーンには奇妙な活気があった。一方、ボヘミア出身の作曲家ユリウス・フチーク(Julius Arnošt Vilém Fučík 1872-1916 注1)は生粋のチェコ人で、被支配民族であり、ドイツ語の使用を強制され、帝国陸軍軍楽隊に職を得ている。

 手元にフチークの傑作「フローレンス行進曲」(邦題)の楽譜があるが、これは英国のBosworth & Companyが1956年に出版したもので、表題はFlorentiner Marchと記載されている。Florentiner はイタリアのフィレンツェ(Firenze)を意味するドイツ語のFlorenzの所有格だ。つまり「フローレンツの」という意味である。Marchは英語で行進曲である。英語にするならば、Florentine March(フロレンタイン・マーチ)とするのが正しい。Florentineが英語のFlorenceの所有格だからだ。

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坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]

1954年生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集長などを経て現職。著書に『複雑系の選択』『めちゃくちゃわかるよ!経済学』(ダイヤモンド社)『浦安図書館を支える人びと』(日本図書館協会)など。


めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

「経済成長の起動力は企業家によるイノベーションにある」とする独創的な理論を構築したシュンペーターの発想の冒険行を、100年前のウィーンから辿る知の旅行記。

「めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編」

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