多言語間の相互翻訳が可能なアプリの人気は高く、App Storeの「辞書/辞典/その他」の部門にも「Google翻訳」や「iHandy翻訳機」など数種類の翻訳アプリが上位に食い込んでいる。「Google翻訳」などは64もの言語に対応している。
今回紹介する「ヘルスライフパスポート」は、前述のような翻訳アプリとは目的も機能も異なるが、やはり多言語でのコミュニケーションをサポートするもので、医療現場での利用に的を絞っている点が特徴である。
株式会社アイエスゲートと群馬大学医学部医療情報部との共同研究で生み出されたこのアプリ、目的は「スマートフォンの普及に合わせ外国人の医療格差を解消するため」とのこと。日本国内に住む外国人を想定してつくられた無料アプリだが、国外に出て「外国人」の立場となった日本人にも役に立つ(iPhone、Android向け)。
当アプリではまず「頭」「胸」「生活」「薬」など12カテゴリー174項目の問診に母国語で答え、結果を22言語(iPhone版)のいずれかで保存する。結果はPDF形式で任意のメールアドレスに送信可能で、もちろんディスプレイでも確認できる。
この問診は初診の際に医師が把握すべき項目をカバーしている。機能は限られているが、逆を言えば医療において最も重要な局面に特化しているのだ。症状、既往症、服用中の薬を正確に伝える目的においては、最適のアプリといえるだろう。
例えばベトナム旅行中に現地の医療機関のお世話になる場合、あらかじめアプリの問診に日本語で答えた結果をベトナム語に翻訳し医師に見せれば、最低限の医療コミュニケーションが成立するわけだ。それからどうするのかは問題だが、そこで「Google翻訳」あたりの出番となる。
今後は対応言語の拡充、音声入力への対応などが待たれるところだが、iPhone版では今年中に64言語への対応が予定されているという。医師側から患者に症状を訊ねたり治療方針を説明したりする同系統のアプリも、近々医療機関での試用が開始される予定だ。
医療の現場に限らず、公的機関との折衝などでは日常会話レベルでは間に合わず、より適切な語彙(ごい)での会話が必要となる。特定の場面を想定して異言語間でのやり取りを支援するアプリが医療以外の分野でも開発され、広く利用されることになるかもしれない。
(工藤 渉/5時から作家塾(R))