ダイヤモンド社刊 1890円(税込)

「大企業が見出しを飾っている。しかし経済の推進役は、急速に大企業から中堅企業と中小企業に替わりつつある。中堅企業と中小企業が競争力をつけ、大企業が競争力を失いつつある」(『実践する経営者─成果をあげる知恵と行動』)

 有能な人材の確保については、中小の組織が負っていたハンディが消えつつある。特に、大企業への就職が終身の保障を意味しなくなったために、中小の組織が有能な若者の選択の対象になった。

 技術についても、中小のハンディはなくなった。かつて、あらゆる産業に、それぞれ特有の技術分野があった。それぞれの産業において先端にあるために必要な技術は、すべてそれぞれの産業が生み出していた。ということは、大企業が優位にあるということだった。

 ところがもはや、一つの技術だけでやっていける企業はない。技術と産業は入り乱れた。いかに大規模であろうとも、必要とする技術のすべてを自給することはできない。そのため規模のメリットが失われた。

 ということならば、より市場に近く、より俊敏に動くことのできる中堅企業や中小企業のほうがよい。あるいは、分権化を超えて分離すべきということになる。

 しかし、産業の性格上、大企業たらざるをえないという企業がある。分割したくとも分割できない。そこで問題は、それらの企業が、大規模であるにもかかわらず競争力を維持していくにはどうしたらよいかである。

 第一は、常に、顧客は誰かを考えることである。マーケティングの基本に帰ることである。もはや顧客は、大企業のものだからと自動的には買ってくれない。

 第二は、自らの強みを再確認することである。その強みを中心にイノベーションに挑戦し続けることである。

 もちろん、いずれも大組織では難しいことである。

「経済の重心が、大企業から中堅企業と中小企業に移ることは、これまでの潮流の逆転である。この潮流の逆転は、これまでのところ経済学者、政治家、マスコミによってほとんど無視されている。だが、この逆転の意味するところは、大企業であるにもかかわらず競争力を維持することが、新しい課題になったということである」(『実践する経営者』)