成人後のメンタルヘルスは思春期の身体症状から予測できるかもしれない。スウェーデンでの調査研究から。
調査ではスウェーデン中部の都市、ウプラサ在住の16~17歳を対象に1991~93年に、うつ病の検査を実施。思春期うつ病患者と一般グループとに分け、専門家による面接と21の身体症状に関する自己評価を行った。身体症状は、頭痛や冷え性、腹痛、めまい、不眠、疲労感など。その上で15年間、彼らを追跡したのである。
その結果、開始時点でうつ病を患っていたグループのうち、身体症状を五つ以上自覚している子どもは、成人後のうつ病再発リスクやパニック障害、躁うつ病などの発症率が高かった。一方、思春期のメンタルヘルスが良好だった一般グループでも、身体症状がある場合は、身体症状がない子どもよりも、成人後にうつ病や不安障害、自傷行為の発症が明らかに多かったのだ。
うつ病というと、落ち込みや意欲の減退など精神症状が強調されがちだが、思春期には慢性的な腹痛や頭痛など身体からの「SOS」が前面に出る「仮面うつ病」が珍しくない。この調査に限れば思春期うつ病と、成人後の発症に強く関係する身体症状は、めまい、トイレに頻繁に行く、不眠、疲労感、そして腹痛だった。特に「腹痛」は単独で強力なリスクであり、成人後のうつ病と不安障害の発症を予測できる因子であることが判明している。
現在、国内のうつ病など気分障害患者は軽く100万人を超える。未受診の潜在患者を考えると、そら恐ろしくなる数字だ。しかも、思春期の有病率は2.0~8.0%と成人並み。早期に対応できれば1、2年で治るといわれているが、再発率も高い。せっかく社会に出ても、再発や新たな発症で休職に追い込まれるケースは少なくないのだ。
もし、わが子に原因不明の「腹痛」が続くようなら、一度ゆっくりと彼らの不安や悩みに耳を傾けてみることをお勧めしたい。見方を変えれば、心身が柔軟なうちにストレスに対処する力を育てるチャンスなのだから。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)