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新型コロナウイルスの感染防止対策に非常に熱心に取り組んでいた企業で、社長が「ワクチンの接種を義務化しよう。接種した社員にはご褒美、しない社員はクビだ」と発言したことで、“接種したくない派”の社員から批判が集まった。そもそも、会社が社員にワクチン接種を義務づけることは可能なのだろうか。社労士の答えは……。(社会保険労務士 木村政美)

<甲社概要>
IT系サービス会社。従業員数は200名。
<登場人物>
A:甲社の社長、50歳。
B:甲社の総務部長、40歳。
C:甲社社員、30歳。B部長の部下。
D:甲社の顧問社労士。

社員全員にワクチン接種を義務化することに

 令和2年4月の第1回緊急事態宣言以来、A社長を中心に新型コロナ感染防止対策を徹底的に行ってきた甲社。「社員からコロナ感染者を出さないようにしよう」をスローガンに掲げ、事務所内では出社時の検温と問診票の記入、マスクの着用を義務とし、社員の手指や使用した備品のアルコール消毒の徹底や部屋ごとの換気調整、社員の席をブースにするなどの対処に取り組んできた。また、在宅で業務を行うことが可能な職種は交代制でテレワーク勤務とし、通勤は公共交通機関の混雑を避けての時差出勤を奨励した。

 しかし国内では現在もコロナの新規感染者が減らず、中には重症化するケースも増えている。そのため社内でもより一層徹底した感染対策が必要だと感じたA社長は、9月の管理職会議で、

「会社ではできる限りの感染対策を実行しており、現在社員にコロナの感染者は出ていない状況だ。しかし、ちまたではまだ新規感染者は出ているし、会社として社員の健康と安全を守る義務がある。もっと徹底した感染対策が必要だ」

 と発言した。