改造プロジェクトが従来の取り組みと決定的に異なるのは、「行ってみたい、乗ってみたい」路線にするため、沿線の地域、行政、企業などといった社外との連携を通じて新しい価値を創造しようとした点にあるという。

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 言うまでもなく鉄道は手段であり、観光鉄道などの例外を除けばそれ自体が目的にはならない。大阪環状線は大阪というエリアを目的地とした移動の足であり、鉄道をブラッシュアップするのと同等かそれ以上に沿線の価値を向上させることが重要になるというわけだ。

 2013年から5年間の(鉄道としては)短期集中の取り組みとして始まった改造プロジェクトの担当部署は2018年に解散しているが、同年に公表した「中期経営計画2022」の中で「地域の皆様と一体となって、誰もが訪れたくなるまち、誰もが住みたくなるまちと沿線をつくります」とした上で、そのひとつに「関西都市圏ブランドの確立」を掲げているように、改造プロジェクトの経験はさまざまな取り組みに息づいている。

 今年の「60周年」もそのひとつに位置付けられる。コロナ禍により業績が悪化し、設備投資の抑制を余儀なくされる現状だからこそ、地域と一体となった小さな取り組みの積み重ねが重要になる。「60周年に限らず沿線の人々にも愛してもらうために、地域の課題解決も含めて一緒にやっていきたい」と渡邉さんは語った。

 JR西日本は大阪環状線60周年記念サイトを開設するとともに、大阪・京橋・鶴橋・天王寺・新今宮・西九条の各駅で60年の歴史を振り返るポスターを掲出。また今後、京都鉄道博物館でも企画展を準備しているそうだ。人間で言えば「還暦」だが、鉄道路線として見ればまだまだ「若手」だ。大阪環状線の変化は今後も続く。