余談だが筆者は東京メトロ勤務時代、改造プロジェクトの取り組みと考え方を学ばせてもらうべくJR西日本近畿統括本部を訪問するとともに、主要駅の実地調査をしたことがある。当時、東京メトロも銀座線リニューアルプロジェクトという路線単位の取り組みを進めており、JR西日本のブランディング戦略を参考にできないかという思いがあった。同業他社の間でも気になる存在だったというわけだ。

利用者の声を重視し
満足度を向上

 ではこの改造プロジェクト、そもそもどのような問題意識に立って始まった取り組みだったのか。JR西日本近畿統括本部企画課の渡邉修二さんによると、背景には2010年代初頭の大阪の「変化」があったという。

 都心回帰により大阪中心部の人口が増加し、2011年に大阪ステーションシティ、2012年にグランフロント大阪、2013年にあべのハルカスなど大型商業施設が次々に開業するなど、大阪環状線沿線で開発が進んだ時期だった。

 JR西日本は2010年に京都支社、大阪支社、神戸支社を統合して近畿統括本部を設立したばかりだったということもあり、京阪神の鉄道ネットワークをどのように進化させていくか議論が行われていた。

 そうした中、既に決まっていた新型車両の導入にあわせて、路線単位でイメージアップを図ろうという機運が盛り上がり、2013年3月発表の「中期経営計画2017」で「大阪環状線のブラッシュアップなどにより、魅力ある近畿エリアを創造します」と打ち出すに至ったという。同年12月に改造プロジェクトは正式にスタートする。

 取り組みの方向性を決めたのは利用者の声だった。JR西日本はそれ以前も「お客様満足度調査」を行っていたが、改造プロジェクト着手にあたり大阪環状線のエリアの中に特化した調査を並行して行い、ニーズの把握に努めた。そこで確認されたのが車両やトイレなど駅設備に対するネガティブなイメージだった。

 改造プロジェクトの目標は大阪環状線を「行ってみたい、乗ってみたい」線区にすることだった。そのためには新たなニーズに応え、新たな価値を創出する必要があったが、まずは「基本機能」をマイナスからゼロにする土台づくりから取り組まなければならなかった。

 もちろんJR西日本がそれまで利用者の声に耳を傾けていなかったというわけではない。個別の取り組みとしてはやっていたが、横断的、戦略的なものにはなっていなかったと渡邉さんは振り返る。取り組みが功を奏し、2018年に実施した調査では満足度は設定した目標にかなり近いところまで上がったという。