さらに、容認派が恐れていた事態が起きた。9月からテキサス州で施行されている中絶禁止法は違憲だとして中絶擁護団体が連邦最高裁に差し止めを求めたところ、5対4でその請求が却下されたのだ。

 元凶は、保守派の支持をつなぎ留めようとするトランプ前大統領が任期中に40代から50代という若い保守派判事3人を最高裁(終身任期)に送り込んだことにある。その結果、以前は拮抗していた最高裁のパワーバランスが今では保守派6人対リベラル派3人と圧倒的に保守派に有利になってしまっている。

「はなはだしく憲法違反の法律を差し止められたのに、判事の多数が見て見ぬふりをすることを選んだのです」と、リベラル派のソニア・ソトマイヤー最高裁判事は当時の反対意見で悔しさをあらわにしている。

 人工妊娠中絶は今やアメリカでは「生命」や「人権」といった倫理の問題ではなく、トランプ色に染まった共和党による政争の具になっているのだ。それだけに最高裁の判断は来年の中間選挙にも少なからず影響が出るだろう。

 歴史的なロー対ウェイド判決が覆れば、全米の半数近い州で中絶が原則禁止となり、共和党支持の保守層やエバンジェリカルと呼ばれるキリスト教原理主義者たちが勢いづく。ミシシッピ州法だけを認めた場合でも、中絶制限を強化する州が増えることは間違いないからだ。

支持率が急低下の
バイデン政権に厳しい逆風

 危機感を持ったバイデン大統領は1日、記者団に対して「私はロー対ウェイド判決を支持する」と明言した。しかし、米ABCテレビとワシントン・ポスト紙が11月中旬に行った世論調査では米国民の6割程度しかロー対ウェイド判決を支持していない。宗教的価値観も絡む人工妊娠中絶はまさに米世論を二分する根深い問題なのだ。

 地元メディアの報道によると、初日の口頭弁論ではトランプが最高裁に送り込んだ3判事を含む保守派判事6人から同州の中絶制限法に肯定的な発言が相次いだ。そのうち4人はロー対ウェイド判決に対しても批判的な様子だったという。