特に、巨大な金融子会社である日本銀行を連結させたお金の出入りとバランスシートを見ないと、政府の金融的安全性が判断できない。また、特別会計や各種の基金のお金の動きを見ないと、日本の政府部門が何をやっていて、どの程度効率的な仕事をしているのかが分からない。

社会保障費は「大きな政府」の支出か?
経済的弱者向け予算の増加は「問題」か?

 さて、本稿が扱う問題は、日本政府全体よりもずっと小さい。

 36.2兆円で前年比1.2%の伸びだとされる社会保障費が本当に「問題」なのだろうか。社会保障費は、大まかに言って、年金や生活保護など、何らかの理由による経済的弱者のための支出だろう。これらを圧縮しなければならないと考えることは「まとも」な思考なのだろうか。

 岸田文雄首相は「成長と分配の好循環」を目指すと言っている。分配を成長と同じくらいには大切にするつもりがあるらしいが、国民間の「経済格差」拡大が問題とされる現状にあって、社会保障費的な富める者から困窮者への移転的支出が増えることが問題だという認識は、方向性が間違っているのではないか。

 社会保障的支出の実質的効果は、政府を通じた富の再分配だが(「所得」だけでなく資産も含めた「富」を再分配の対象にするべきだ)、支出されたお金を何に使うのかは「民間」の国民一人一人が決める。政府が決めるのではなく、一人一人の必要性と経済合理性に基づいて支出内容が決まる。

 一方、公共事業費(6兆円)や新型コロナウイルス対策の予備費用(「とりあえず5兆円」とは何とも大ざっぱだ)のような支出内容は、政府が決める。政府のお金の使い方が効率的なのかどうかを問われる支出だ。

 一般に「大きな政府」を定義する際には、財政支出の国内総生産(GDP)に占める割合を使うが、この尺度は不適切であるように思える。