年金の手取り額が減って困るなら
年金のルールの問題では?

 年金支給の手取り額が現実に減るということの心理的インパクトは、年金受給者にとっては小さくない場合があるだろう。

 だが、その減額は、法律で決められたルールに従って行われるものだ。建前上は、年金受給者の生活や現役世代の負担、年金財政の安定などのバランスを取りながら行われている増減だ。

「年金の手取額が減るのはどうしても困る」ということなら、年金制度そのものを再検討すべきではないか。

 公的年金はそれ自体の制度が複雑であり、また、政治的に変更が難しい種類の仕組みだ。しかし、変更が全く不可能なわけではない。

なぜ年金受給者だけに?
現役世代も大いに困っている

 また、「なぜ年金受給者だけが給付の対象なのか」という別の問題がある。新型コロナウイルスの影響で不自由が生じていたり、もろもろの物価の上昇で生活を圧迫されたりしているのは、年金受給者だけではない。現役世代にも大いに困っている人はいる。

 年金受給者の減収には手当を行い、現役世代の困窮者には追加的なサポートを行わないというのは、バランスを欠いていないだろうか。「不公平だ」という声が現役世代から出てもおかしくないし、実際に出ている。現役世代は働いて稼ぐことができるのだから、困っているとしても努力が足りない「自己責任」だ、とでも言いたいのだろうか。

 この種の自己責任論は、岸田文雄首相が口にする「新しい資本主義」とは方向性の違う考え方ではないかと推測するのだが、違うのだろうか(そもそも「方向性」など定まっていないのかもしれないが)。

 現役世代に不公平感があるとしても、こうまでして機嫌を取りたいほど年金を受給する高齢者の投票行動は選挙にとって重要なのだろう。政治的な現象としてこの政策を見ると、そういう結論になる。