ロシアがプーチンの顔を立てるなら、中国は「習近平の顔」を…

 中国は、同じ権威主義体制の大国として、ロシアと深い関係を持っている点は言うまでもない。しかし、一方でウクライナとも「一帯一路」計画で経済的に密接な協力関係を築いてきた。だから、中国はウクライナ紛争について、ウクライナの主権や領土の尊重を訴えつつ、ロシアが要求するNATOの不拡大を支持する、曖昧な立場を取ってきた。

 見方を変えれば、中国が停戦協議の仲介者に適すると思えなくもない。ウクライナが最低限譲れないものは、「ロシア軍の撤退」「国家としての独立と国民の安全」、一方ロシアが譲れないものは、「ウクライナの中立化(NATO非加盟)」である。それは、中国の立場と一致しているようにみえるからだ。

 だが、それだけでは、停戦合意には不十分なのだ。

 前述のように、プーチン大統領が「撤退した」という形になるのを、ロシアは絶対に受け入れられない。では、どうすれば大統領の「顔が立つ」のかといえば、突き詰めると、ウクライナの「無条件降伏」「非武装中立」ということになる。

 当初、ロシアはかたくなにこの2つの条件を主張し続けた。しかし、ウクライナが受け入れられるわけがない。次第に、セルゲイ・ラブロフ外相など、ロシア側の交渉担当者たちは、どうすればプーチン大統領が「成果」を得たという形になるかを模索し始めた。だが、妙案がなかなか見つからない。

 これでは、中国が停戦協議の仲介に出ていくのは難しい。なぜなら、中国では、習主席は絶対に正しく、間違わないのが「権威」だ。ゆえに、中国が仲介に乗り出せるのは、「習主席が停戦をまとめて、世界に平和をもたらした」という形を作れる確証がある場合だけだ。それは現状では難しい。

“巨大なモンゴル帝国「元」の再出現”という懸念

 次に、中国が懸念するのは、米国やNATOとの関係だろう。米国やNATOは、ロシアの経済制裁逃れに、中国が手を貸さないよう要求してきた。

 しかし、3月初め、国連総会がロシア非難決議を採択した際、中国は棄権票を投じた。中国は「世界経済の回復に衝撃をもたらし、各国に不利だ」と、ロシアへの経済制裁に反対し、当事国同士の対話による紛争の解決を訴えている。

 一方で、王毅外相が「必要な時に、国際社会とともに仲裁を行う用意がある」と発言するなど、状況に応じて国際社会と連携して仲裁に当たる考えも示している。

 中国の曖昧な姿勢は、米国やNATOと決定的に対立したくないことを示している。今、中国は、経済状況が思わしくない上に、新疆ウイグルなどの人権問題で米国などの制裁を受けている。ロシアを支援しているとみなされて、米国やAUKUS(米英豪安全保障協力)からこれ以上に厳しい経済制裁を受けてしまう事態は避けたいということだ。

 なお、ロシアとしても、中国から軍事的・経済的支援を受けることを、もろ手を挙げて歓迎できないことを指摘しておきたい。