例えば、ロシアは極東地域の石油・天然ガス開発を中国と共同で行ってきたが、中国との共同開発は、ロシアにとって悩ましい部分があった。

 なぜなら、ビジネスマン、技術者だけでなく、政府の役人から労働者、掃除婦のようなエッセンシャルワーカーまで大量の中国人がロシアにやって来るからだ。これはアフリカへの中国進出でも見られたような得意の「人海戦術」だ。極東に「チャイナタウン」ができて、実効支配されてしまう恐れがある。

 ゆえに、ロシアは日本の極東開発への協力を強く望んでいた。それが、プーチン大統領が北方領土問題で「引き分け」という日本語の言葉を持ち出してリップサービスしてまで、安倍晋三首相(当時)を交渉に引き込み、日本の経済協力を引き出そうとした理由なのだ(第142回・p2)。

 だから、できれば中国の軍事的・経済的支援を最小限に抑えて、自力で解決したいはずだ。中国に完全に依存する形になってしまうと、ロシアは中国にのみ込まれてしまう懸念があるからだ。

 ウクライナ紛争を通じて、中ロ関係がより強固なものとなるとすれば、それは対等な関係ではない。中国がロシアに対して圧倒的な影響力を持つ形での「中ロ一体化」だ。言い換えれば、巨大なモンゴル帝国「元」の再出現とでもいうべきものかもしれない。それはロシアにとって、軍事的・経済的に立ち行かなくなる最悪の事態に陥らない限りは、避けたいことであるはずだ。

今回、日本が「中立」ではいけない理由

 ウクライナ紛争における、日本の立場は、基本的にはシンプルだ。ロシアによる一方的な「力による現状変更」は絶対に容認しないという強い態度を示すことだ。

 ウクライナ軍事侵攻という「力による現状変更」は、ロシアを国際社会で完全に孤立させた。軍隊によって国がじゅうりんされて、命が奪われることが容認されるならば、自国に対する侵略も許されてしまうことになる。大国にじゅうりんされる不安を感じている中堅国、小国ほど、その思いを強く持ったのだ(第298回・p3)。

 日本も同じである。中国の軍事力の急激な拡大、そして台湾侵攻、尖閣諸島侵攻の懸念という安全保障上の重大なリスクを抱える日本は、「力による現状変更」は絶対に容認されないという、揺るぎない強いスタンスを取らねばならない。

 日本は、ウクライナとロシアの間で「中立」であるべきという主張がある。確かに、双方に言い分があり、やむなく戦争に至った場合、第三国は「中立」であるべきだ。

 だが、ウクライナ紛争は、一方的にロシアが「力による現状変更」を強行した。日本として絶対に認めらないことであり、ウクライナを支持すべきである。

 開戦に至る前、ウクライナ側にも相当に問題があったこと、ロシア側にも理解すべき言い分があることは承知している。しかし、国際社会では、他国の領土に「先に手を出す」ことは認められないのである。

 それは、ウクライナ紛争に対する日本の立場を示すこと以上の意義がある。日本の領土を侵し、国民の命を奪うことは絶対に認めないという姿勢を示す「安全保障政策」そのものだからである。

 ただし、日本の姿勢はシンプルでも、現実には非常に難しいかじ取りを迫られることになるのではないだろうか。ロシアへの経済制裁によって「中ロ一体化」がすすむと、日本に深刻な影響が出る可能性があるからだ。