もう一つ印象的なポイントは、報道の無責任さだ。テレビのニュースで、江蘇省塩城市が上海に野菜などの救援物資を2500万トン送ったと報道されたのだ。人口2500万人の上海に2500万トンの野菜などをわずか数日で送ったなど、ありえないニュースであった。おそらく放送原稿を作成するときに発生した単純なミスだろうが、時期も時期だけに、メディアの信用を大きく落として、大問題になった。

「マンション」内で住民同士が食料を分かち合う

 大都会の上海では、住民の多くは「小区」と呼ばれるコミュニティにあるマンションに住んでいる。東京や大阪と同じように、住民同士は互いに隣近所の顔さえ覚えていないほど、隣里関係は非常に薄くなっている。だから、ロックダウンという非常事態に直面したとき、高齢者しかいない家庭の生活が一気に危険な状態に陥ってしまうケースが多い。しかも、インターネットが日常生活に深く浸透しているだけに、デジタル難民とも言われる高齢者はネットから野菜などの食品を購入することさえもできず、ますます孤立無援の弱者になってしまう。

 こうした現状を目の当たりにした若者がボランティアとして立ち上がり、マンション住民のために野菜などの団体購入グループを結成した。それがSNSで紹介され、他の団地やマンションもマネするようになり、あっという間に広がった。リーダー役の若者は「団長」と呼ばれるが、無数の無名の団長たちの努力で、住民たちはロックダウンの長期化がもたらした危機的状態を乗り切ることができるようになった。

 その中で感動的な話も伝わってきた。

 在上海日本総領事館に近い「太陽広場(Sun Plaza)」は中国人住民と日本人住民が混住するコミュニティで、上海では最大級の日本人コミュニティとしても知られる。そこの中国人住民がSNSにアップしたある動画が話題を集めた。

 その動画では、黒神さんという女性団長をはじめとする日本人ボランティアがマンション住民のための野菜やお米など食品の確保に全力を尽したことを取り上げ、中国人住民が感謝の気持ちを表していた。ロックダウンの厳しい状態のなかで、心に染みる清水のように清らかな話だった。

 また、あるマンションでは、コカ・コーラを複数持っていた住民がその一部を廊下に出して、ほかの住民が自由に持っていけるようにした。しかし、住民たちは他の住民のことを考えて、それぞれ少しずつ持っていくだけに留めた。そして、自分が所有している食品などを持ち出して交換したのだ。廊下はミニスーパーに変身したかのようだった。

 90歳の母親は60代の妹と一緒に上海で暮らしているが、下のフロアに住む人から野菜をもらったり、朝食の団体購入を申し込んだりして厳しい日々を乗り越えようとしている。母親のことを心配したマンションの見知らぬ若いボランティアも、「生活に助けが必要か」と聞きに来てくれるそうだ。

 外出できたある住民は帰りに生活に必要な物資をたくさん購入してきて、マンションの下に置いて住民たちに自由に持っていけるようにしたが、誰もが他の住民のことを考えて、少なめに持っていくだけだった。しかも全員、代金を支払ったという。