大統領選後の米国で懸念されていた、いわゆる“財政の崖”が1月1日、期限ギリギリで回避された。
財政の崖とは、財政再建を進めるための「実質増税」と「歳出削減」が、年末年始に集中するために景気が失速しかねなかった事態のことだ。
具体的には、「ブッシュ減税」と呼ばれる時限的な所得減税の失効や、13年度から9年間で一般歳出を強制的に削減していく「歳出の自動削減」など、複数の措置がたまたま重なった。これらが一気に発生すれば、約9割の家計が増税となり、平均税率は約4.5%も上がる見込みだったのだ。
金額にして5000億ドル(約40兆円)近い財政赤字の縮小幅は、GDP比で実に3.3%に相当。まさに“崖”から落ちるような急激な景気失速が不安視されていたが、米国はそのような“崖”を作ってまで財政再建を急ぐ必要に迫られていたわけではない。
これらは既に法律で決められていたため、回避すべく何らかの法改正を行う必要があった。そこで民主・共和両党は1月1日、期限ギリギリまで協議を続けた結果、ようやく上下両院で減税延長などの法案を可決。家計の平均税率もなんとか1.8%増に留まった。
あまり注目されていないが、実は今回、景気に最も大きな影響を及ぼしかねなかったブッシュ減税失効は、金額にすれば富裕層分を除く8割強が、減税延長ではなく「恒久化」された。これまで2度も延長され、期限が迫る度に懸念材料となっていたブッシュ減税の行方について、不透明感が低下したことは評価できる。
一方、世帯年収45万ドル以上の富裕層についてはブッシュ減税を打ち切り、オバマ大統領が強く主張していた富裕層増税が実現した。
土壇場で最悪の事態は回避された財政の崖だが、大きな禍根を残している。交渉の過程で互いに譲歩はしたものの、結果的にオバマ大統領や民主党に対し、共和党が大きく譲った形になったからだ。
そもそも財政再建策を巡る与野党の対立は、その手段が増税か歳出削減かで起きている。大きな政府を志向する民主党は、増税には賛成だが歳出削減には否定的。これに対し小さな政府を志向する共和党は、増税には大反対だが、歳出削減には積極的だ。