米国以上に状況が厳しいユーロ圏
インフレ退治の覚悟が問われるECB

 米国以上に状況が厳しいのがユーロ圏だ。ECB内部では金融政策の正常化で意見がまとまったものの、利上げのペース、そのマイナスの影響への対応策を巡って各国中銀の見解が錯綜(さくそう)している。

 オランダやドイツなどの中銀関係者は、0.50ポイントなどの利上げを急ぎ、インフレ退治に徹底して取り組む決意を示さなければならないと主張する。ウクライナ危機をきっかけにロシア産の原油や天然ガス、穀物などの供給が減少し、物価がさらに上昇するとの恐怖心理は急速に高まっている。

 一方で、イタリアやスペインなどの南欧諸国は、インフラ退治に加えて、財政リスクを背景に金利が急騰する展開にも目を配らなければならない。

 そのためECB理事会はインフレ退治に取り組みつつ、南欧諸国の金利上昇コストを和らげるため債券購入などを続ける可能性が高い。しかしそれは、金融政策の正常化、引き締めペースを緩慢にさせ、インフレ退治の遅れにつながる懸念もある。

 欧州各国で物価急騰が続く可能性は高い。結果的に、ECBはどこかのタイミングで、思い切って大幅な利上げに踏み切らざるを得なくなることも想定される。それによって、域内の経済と金融市場に大型ハリケーンのような衝撃が発生することも考えられる。

 急速な金利の上昇は、益力が十分ではない南欧やドイツの銀行の資金繰りを悪化させるだろう。ユーロ圏各国で統一された預金保険制度を確立できておらず、金融システム不安が発生した場合の対応力には不安がある。

 2021年春の「アルケゴス問題」(米アルケゴス・キャピタル・マネジメントとの取引で世界の金融機関が相次いで損失を計上した問題)で大損害を被ったクレディ・スイス・グループにも、そうしたリスクが伝染し、欧州でシステミックリスクが急速に上昇するリスクもある。どのようにインフレ退治を進めるか、ECBの覚悟が問われる。